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化学

2024.08.06

環を開いて価値を生む新しいクロスカップリング反応を開発 ~光学活性な有機硫黄化合物の立体制御を実現~

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)のCathleen Crudden (キャサリン クラッデン) 主任研究者/客員教授、南保 正和 特任准教授、Roberto Nolla-Saltiel (ロベルト ノーラ-サルティエル) 研究員らの研究グループは、東京大学の横川 大輔 准教授らと共に、ニッケル触媒を用いた光学活性な環状アルキルスルホン類の炭素?硫黄結合の切断と立体制御を同時に可能にする新形式のクロスカップリング反応を開発しました。
スルホンのクロスカップリング反応は、1979年に初めて報告されて以来、現在に至るまで、生成物の立体制御に成功した報告はなく、本研究が世界初の例となります。
本手法は入手・調製容易な試薬を用いて実施することが可能であり、従来合成自体が困難な光学活性な有機硫黄化合物を合成することができました。
本手法の開発によって、これまでほとんど注目されてこなかった有機硫黄化合物の新しい活用法が提示できたのみならず、新しい医農薬品や有機材料の開発への貢献が期待されます。
本研究成果は、2024年8月5日19時(日本時間)付イギリスの科学雑誌「Nature Chemistry」のオンライン版に掲載されます。

 

【ポイント】

・光学活性な環状のアルキル注1)スルホン注2)の開環と立体制御を同時に可能にする新形式のクロスカップリング反応注3)を開発
・入手と調製が容易な試薬を用いて実施することが可能であり、従来合成自体が困難な光学活性な有機硫黄化合物の合成が可能
・有機硫黄化合物の新しい活用法の提示のみならず、新しい医農薬品や有機材料の開発への貢献が期待される
 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)アルキル:
飽和炭化水素(アルカン)から水素原子1個を除いた官能基。
注2)スルホン:
有機硫黄化合物の1つであり、硫黄上が2つの炭素と2つの酸素が結合している分子の総称。
注3)クロスカップリング反応:
2つの異なる分子どうしを選択的につなぐ有機合成化学における革新的な反応。日本人の研究者が分野の発展に大きく貢献し、多くの人名反応が存在する。2010年に根岸英一先生、鈴木章先生がノーベル化学賞を受賞。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Chemistry
論文タイトル:Enantiospecific Cross-coupling of Cyclic Alkyl Sulfones
著者: Roberto Nolla-Saltiel、Zachary T. Ariki、Stefanie Schiele、Jana Alpin、田原康予、横川大輔、南保正和*Cathleen M. Crudden* (*は責任著者) 
DOI: 10.1038/s41557-024-01594-x
URL: https://www.nature.com/articles/s41557-024-01594-x 

                                      

【WPI-ITbMについて】http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) 南保 正和 特任准教授、Cathleen Crudden 主任研究者/客員教授
https://nagoya-uni-cruddengroup.labby.jp