化学
2024.08.22
金と白金元素を含む王冠状金属ナノ集合体の精密合成に成功 ~異種金属ナノ集合体の新機能開拓への足がかり~
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) ※の大井 貴史 教授、南保 正和 特任准教授、Cathleen Crudden(キャサリン クラッデン) 主任研究者/客員教授、 Joseph F. DeJesus(ジョセフ F. デヘイスース) JSPS外国人特別研究員、大学院工学研究科の荒巻 吉孝 助教らの研究グループは、金と白金元素を含む王冠状金属ナノ集合体(金属ナノクラスター)の精密合成に成功しました。
金属ナノクラスターは原子数個から数百個から成るナノサイズの集合体であり、一般的な金属材料とは異なる光学特性や触媒活性を示すことから近年注目を集めている物質群です。しかしながら、金属ナノクラスターは一般的に不安定で、容易に分解または凝集してしまうことが課題であり、異種の金属元素を含む安定な金属ナノクラスターの精密合成の報告例は非常に限られていました。
本研究では、金?白金元素を含む王冠状の金属ナノクラスターの精密合成に成功しました。成功の鍵は金原子と強固に結合する嵩(かさ)高い含窒素ヘテロサイクリックカルベン(NHC)配位子を用いる点であり、これにより安定な金属ナノクラスターが得られました。また質量分析による反応追跡によって、金属ナノクラスターの形成には金ヒドリド種が関与していることを明らかにしました。
今後本合成法を活用した未知の異種金属ナノ集合体の合成やその新機能開拓が期待されます。
本研究成果は、2024年8月14日付アメリカ科学誌『Journal of the American Chemical Society』オンライン版に掲載されました。
・金と白金元素を含む王冠状金属ナノ集合体(金属ナノクラスター)の精密合成
・含窒素ヘテロサイクリックカルベン(NHC) 注1)配位子注2)によるクラスター構造の安定化
・金属ナノクラスター形成に金ヒドリド種注3)が関与
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)カルベン:
炭素の4つの結合のうち2つが欠損した化学種。反応性が高く不安定であるが、本研究で用いる含窒素ヘテロサイクリックカルベンは比較的安定で、金属に強固に結合する配位子として活用することができる。
注2)配位子:
金属に結合(配位)する分子や陰イオン。
注3)金ヒドリド種:
金原子と水素原子との間に結合を有する化学種
雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:If the Crown Fits: Sterically Demanding N-Heterocyclic Carbene Promotes the Formation of Au8Pt Nanoclusters
著者:Joseph F. DeJesus*, Samuel I. Jacob*, Quan Manh Phung†, 三村 耕一†, 荒巻吉孝†, 大井貴史†, 南保正和†, Cathleen M. Crudden† (*本学研究員, †本学教職員)
DOI: doi.org/10.1021/jacs.4c04873
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.4c04873
※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。
大学院工学研究科 荒巻 吉孝 助教
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/organic3/index.html
トランスフォーマティブ生命分子研究所/大学院工学研究科 大井 貴史 教授
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/organic3/index.html
トランスフォーマティブ生命分子研究所/大学院理学研究科 南保 正和 特任准教授
https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/en/
トランスフォーマティブ生命分子研究所/Queen’s University, Canada Cathleen M. Crudden 主任研究者/客員教授