名古屋大学大学院理学研究科の小林 竜太朗 博士前期課程学生(当時)と大久保 祐里 助教、大西(小川) 真理 助教、松林 嘉克 教授らの研究グループは、植物が葉の窒素需要(空腹や満腹)に応じて根における窒素栄養の吸収量を調節するしくみを解明しました。
窒素は植物の成長に最も重要な栄養素のひとつで、主に硝酸イオンを根から吸収していますが、その吸収は、葉からのシグナルによって調節されています。本研究では、葉の窒素需要を根に知らせるシグナルとして、既に発見していた空腹シグナルに加えて、満腹シグナルが存在することを発見しました。
さらに本研究では、根において空腹シグナルおよび満腹シグナルと結合して窒素吸収に必要な遺伝子群の発現を制御するタンパク質TGA1およびTGA4を発見しました。TGA1/4は転写因子注1)として働き、TGA1/4に対して空腹シグナルが結合すると窒素吸収遺伝子の発現を促進し、満腹シグナルが結合すると発現を抑制することを突き止めました。転写因子TGA1/4を欠損した植物は土壌の窒素量が変動する環境に適応できず、葉が小さくなるなど正常に生育できないことが分かりました。
これらの結果は、刻々と変動する土壌窒素栄養環境への植物の適応のしくみを理解する上で重要な手がかりとなり、今後の農業分野への応用も期待されます。本研究成果は、2024年8月23日18時(日本時間)付のイギリス科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されます。
・植物は葉の窒素需要(空腹や満腹)に応じて、根からの窒素吸収量を調節している。
・本研究では、根において葉由来の空腹/満腹シグナルと結合して窒素吸収に必要な遺伝子群の発現を制御するタンパク質TGA1およびTGA4を発見した。TGA1/4を欠損した植物は、土壌中の窒素栄養量が経時的に変動する環境では、葉の窒素需要の増大に応じた根からの吸収促進ができないために正常に成長できなかった。
・本成果は、窒素吸収能力を最適化した作物の作出につながると期待される。
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注1)転写因子:
ゲノムDNA上の特定の配列を認識し、そこに直接結合することで、近くの遺伝子の発現を調節するタンパク質。
雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Integration of shoot-derived polypeptide signals by root TGA transcription factors is essential for survival under fluctuating nitrogen environments
著者:Ryutaro Kobayashi, Yuri Ohkubo, Mai Izumi, Ryosuke Ota, Keiko Yamada, Yoko Hayashi, Yasuko Yamashita, Saki Noda, Mari Ogawa-Ohnishi and Yoshikatsu Matsubayashi
DOI: 10.1038/s41467-024-51091-5
大学院理学研究科 松林 嘉克 教授
https://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~b2/