この度、学校法人新潟総合学園新潟医療福祉大学心理健康学科の山本裕二学科長、名古屋大学総合保健体育科学センターの横山慶子准教授、山梨大学大学院総合研究部教育学域の木島章文教授、東京学芸大学の奥村基生准教授、山梨大学大学院総合研究部生命環境学域の島弘幸教授は、共同して実施した実際の試合データの解析と数値シミュレーション実験で、テニスの上級者は相手との駆け引きにおいて、ラリー中に規則性を埋め込むことで、相手の予測を裏切る戦略を用いていることを明らかにしました。
この報告は2024年9月4日付けでNatureが刊行するオープンアクセスジャーナルであるScientific Reportsに掲載されました。また,新潟医療福祉大学・研究奨励金の助成を受けました。
ネット型対人競技では、必ずボールを交互に打球し、相手の打球に必ず対応しなければならないため、自らの打球コースで相手をコントロールすることも可能な競技と言えます。では、実際の試合において、選手たちはどういった配球をしているのでしょうか。また、そこには相手を打ち負かすどんな戦略があるのでしょうか。ソフトテニスの試合中の打球コースの系列を分析してみると、熟練者は中級者に比べて規則性をたくさん使っていることがわかりました。その規則性は左右交互が多かったのですが、この左右交互への打球によって、相手は少しずつ態勢を崩しているような運動の履歴が残っていました。そこで、こうした規則性の特徴を明らかにするために、打球コースとそれに対応するコート上の動きをシミュレーションにより解析したところ、中級者の規則性は熟練者よりもランダムに近い系列であることがわかりました。つまり、熟練者は自らが規則性を生み出すことで、相手にその規則性を予測させ、相手が規則性を予測した時点でその予測を裏切るような戦略をとっていると考えられました。
この研究は科学研究費補助金基盤研究(A)「対人運動技能の制御・学習則の解明(20H00572)」の支援のもとで行われました。
1) 実際の試合中の打球コースに規則性があることを、リターンマップ分析で明らかにしたことです。そして打球コースの系列を並び替えたデータと比較することで、ゲーム中にはっきりとした規則性があることを示しました。
2) 相手の打球コースの規則性に対応してコート上を動くことで、履歴現象(フラクタル性)が見られます。その特徴は以前の実験結果(Yamamoto & Gohara, Hum Mov Sci, 2000)と同じでした。すなわち、実際の試合場面でも、全身を移動させることによる慣性が影響して、回転のあるカントール集合(自己相似図形)で予測される運動の履歴現象が示されました。
*履歴現象とは、一つ前のボールが右と左で異なると、同じく右に来たボールを打ち返す動きが変わってしまう現象をいいます。図2FのX2では1球目が右で、2球目も右(RR)ならば上から2番目に来ていますが、1球目が左で2球目が右(LR)なら一番上に来ています。このように「今の入力」が同じでも、一つ前、あるいは2つ前の入力が違えば、「今の入力」に対する反応動作が異なってくることを表します。
3) ショット角度の系列に応じたプレーヤーのコート上の動きを数理モデルでシミュレーションした結果、中級者のショット角度系列は上級者と比較して「でたらめ」に近いことが明らかになりました。この結果から、中級者はその都度,自分のやりたいことをでたらめにやる傾向が高く,反対に上級者は規則性をうまく使いながら相手と駆け引きをしていると考えました。
*規則性:「右→左→右→」と5番目まで来たら、あなたは6番目はどっちが来ると思いますか?これが規則性を作って、相手に次を予測させる規則性を利用した戦略です。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
Yamamoto, Y., Yokoyama, K., Kijima, A., Okumura, M. & Shima, H. (2024). Interpersonal strategy for controlling unpredictable opponents in soft tennis. Scientific Reports, 14, 20546, DOI: 10.1038/s41598-024-71538-5