名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所の自見 直人 講師は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)および北海道大学大学院理学研究院の柁原 宏 教授との共同研究で、海の有機汚濁の指標種とされているミズヒキゴカイは、12種を内包し、環境指標として一括に使うことは適していないことを、新たに発見しました。また、その12種のうち10種は新種として記載しました。
ミズヒキゴカイは日本の沿岸にふつうに生息しており、図鑑や水族館でも見ることのできるゴカイです。海の汚い場所の指標種とされており、環境アセスメントにおいてミズヒキゴカイが出現した場合、汚い海域であると判断する、というように用いられてきました。しかし、実際は複数種が含まれており、住む環境が一様ではないのでは、という懸念を解決するために、北海道から沖縄まで日本中のミズヒキゴカイを集め、生息環境データの取得を行いました。その結果1種が12種に分かれ、そのうち10種は新種であり、生息環境も異なることを明らかにしました。
本研究を基に今後環境アセスメントに用いられる環境指標種注2)の運用が正確な分類学的・生態学的な研究に基づいて行われていくことが期待されます。
本研究成果は、2024年9月5日0時(日本時間)付日本動物分類学会発行の国際査読付き雑誌「Species Diversity」にオンライン掲載されます。
・海の汚いところの指標種とされていたミズヒキゴカイ注1)は研究の結果1種が12種に分かれることが分かった。
・12種のうち10種は新種であり、それぞれの生息環境のデータを取った結果、12種を一くくりに海の汚いところの指標種とすることは不適切であることを証明した。
・環境指標として利用可能かどうかを検証するためには、日本各地の標本を集めると同時に生息環境データを取得する大規模な調査が必要な難しい状況であったが、1ヶ月間車中泊をしながら日本沿岸を1周しゴカイを採集する力技で解決した。
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注1)ミズヒキゴカイ:
ミミズ等が含まれる環形動物門の一種。環形動物の仲間には釣り餌で知られるアオイソメ等のゴカイが含まれる。ミズヒキゴカイは背中から出ている触手を砂から出して呼吸し餌を集めている。日本全国から知られ、図鑑でよく紹介される。展示している水族館もある。
注2)環境指標種:
生息環境が限られ、生物種の出現がその環境を反映していると評価することができる種。ミズヒキゴカイは有機汚濁の環境指標種とされ、その出現は汚れた海であると判断する材料にされていた。
雑誌名:Species Diversity
論文タイトル:Evaluation of “Cirriformia tentaculata” (Annelida: Cirratulidae) from Japan as a Pollution Indicator in Marine Environments: Is it Truly a Single Species?
著者:Naoto Jimi(名古屋大学), Yoshihiro Fujiwara(海洋研究開発機構), Hiroshi Kajihara(北海道大学)
DOI: 10.12782/specdiv.29.281
https://sites.google.com/site/polychaetesnaotojimi/home
https://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~SugashimaMBL/