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数物系科学

2024.09.06

小惑星リュウグウに存在するマグネシウム炭酸塩の形成史と始原的なブライン(brine)の化学進化を解明

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)海洋機能利用部門 生物地球化学センターの吉村 寿紘(としひろ)副主任研究員と高野 淑識(よしのり)上席研究員、国立研究開発法人産業技術総合研究所の荒岡 大輔 主任研究員、国立大学法人九州大学大学院理学研究院の奈良岡 浩 教授らの国際共同研究グループは、国立大学法人東京大学、株式会社堀場テクノサービス、国立大学法人北海道大学、国立大学法人東京工業大学、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学の研究者らとともに、小惑星リュウグウのサンプルに含まれるブロイネル石(Breunnerite)(*1)などのマグネシウム鉱物や始原的なブライン(brine)(*2)の精密な化学分析を行うことで、その組成や含有量などを明らかにしました。

 

小惑星リュウグウは、地球が誕生する以前の太陽系全体の化学組成を保持する、最も始原的な天体の一つです。これまでさまざまな研究グループの分析により、鉱物・有機物と水が関わる水質変成(2023年9月18日既報2024年7月10日既報)が明らかとなってきましたが、いわゆる「ブライン(brine)の化学組成とイオン性成分の沈殿」に関する反応履歴は、未だ不明のままでした。
そこで本研究では、小惑星リュウグウのサンプルから微小な炭酸塩鉱物(ブロイネル石)の単離・同定と陽イオン成分の溶媒抽出を行い、精密な化学組成分析を行いました。その結果、リュウグウに含まれる鉱物と最後に接触した水の陽イオン組成は、ナトリウムイオン(Na+)に富んでいることがわかりました。リュウグウにはマグネシウムに非常に富む鉱物が複数存在しており、これらが水からマグネシウムを除去した際の沈殿順序を解明しました。ナトリウムイオンは、鉱物や有機物の表面電荷を安定化させる電解質として働いたと考えられます。
本成果は、初期の太陽系の化学進化を紐解くものであるとともに、始原的なブライン(brine)の物質情報、炭素質小惑星上での水-鉱物相互作用の一次情報を提供した重要な知見となります。

 

【ポイント】

◆ 小惑星リュウグウから採取されたサンプルを複数種類の溶媒で抽出し、始原的なブライン(brine)の組成を明らかにした。水と鉱物との相互作用による溶存イオン成分として、ナトリウムイオン(Na+)が最も多く含まれることを明らかにした。
◆ さらに、小惑星リュウグウのサンプルから見いだした微小な炭酸塩鉱物(ブロイネル石)を単離・同定し、高精度同位体質量分析法によるマグネシウム同位体組成の測定を行うことで、リュウグウに存在した初生的な母岩と水との相互作用(水質変成)の過程で、二次鉱物として炭酸塩が形成されたことを明らかにした。
◆ 本成果は、地球が誕生する以前の太陽系において物質はどのように存在していたのか、また、地球、そして海水の組成を規定する化学進化を探求する上で重要な知見となる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 ブロイネル石(Breunnerite):鉄を含む炭酸マグネシウムの一種で、化学式は (Mg,Fe)CO3と示される。マグネシウムと鉄の置換作用により、マグネシウムと鉄の割合が変化する。本論文では、リュウグウサンプルから、ブロイネル石を単離し、レーザー顕微鏡による非破壊分析法および高精度同位体質量分析計による破壊分析法を用いて、精密な解析を行うとともに、鉱物沈殿のモデルシミュレーション解析と合わせて統合的な評価を行った。

 

*2 ブライン(brine):ブラインとは、塩化ナトリウムや塩化マグネシウムなどの塩分を含んだ水を意味する。かつて、豊かな水が存在した小惑星リュウグウでは、「水質変成」と呼ばれる水―鉱物―有機物の相互作用によって母岩に含まれる初期物質が溶解し、イオン性の成分が形成された。本論文では、それらの始原的なブライン(Primordial brine)の物質情報について報告している。

 

【論文情報】

タイトル:Breunnerite grain and magnesium isotope chemistry reveal cation partitioning during aqueous alteration of asteroid Ryugu

 

著者:吉村 寿紘1*, 荒岡 大輔2, 奈良岡 浩3, 坂井 三郎1, 小川 奈々子1, 圦本 尚義4, 森田 麻由5, 小野瀬 森彦5, 横山 哲也6, マーティン・ビッツァーロ7, 田中 悟5, 大河内 直彦1, 古賀 俊貴1, ジェイソン・ドワーキン8, 中村 智樹9, 野口 高明10, 岡崎 隆司3, 薮田 ひかる11, 坂本 佳奈子12, 矢田 達12, 西村 征洋12, 中藤 亜衣子12, 宮﨑 明子12, 与賀田 佳澄12, 安部 正真12, 岡田 達明12, 臼井 寛裕12, 吉川 真12, 佐伯 孝尚12, 田中 智12, 照井 冬人13, 中澤 暁12, 渡邊 誠一郎14, 津田 雄一12, 橘 省吾12,15, 高野 淑識1*

 

1 国立研究開発法人海洋研究開発機構
2 国立研究開発法人産業技術総合研究所
3 国立大学法人九州大学 理学研究院
4 国立大学法人北海道大学 大学院理学研究院
5 株式会社堀場テクノサービス
6 国立大学法人東京工業大学 理学院 地球惑星科学系
7 Centre for Star and Planet Formation, Globe Institute, University of Copenhagen,デンマーク
8 Solar System Exploration Division, NASA Goddard Space Flight Center,アメリカ
9 国立大学法人東北大学 大学院理学研究科
10 国立大学法人京都大学 大学院理学研究科
11 国立大学法人広島大学 理学部
12 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
13 神奈川工科大学
14 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科
15 国立大学法人東京大学 大学院理学系研究科/大学院理学系研究科附属宇宙惑星科学機構
* 共同筆頭著者

 

DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-024-50814-y 

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 渡邊 誠一郎 教授
https://www.eps.nagoya-u.ac.jp/geophys.html