名古屋大学大学院理学研究科の小嶋 誠司 教授、内橋 貴之 教授、本間 道夫 名誉教授らの研究グループは、大阪大学大学院理学研究科、同大学蛋白質研究所、同大学大学院生命機能研究科との共同研究で、細菌の運動器官(べん毛)の形成のための足場の役割を担う複合体(Sリング)の構造を新たに解明しました。
細菌の運動器官であるべん毛は、細菌が移動するために重要な役割を果たします。特に、べん毛の基部にあるMリングとSリングは、べん毛が形成されるための足場複合体として働きます。本研究では、海洋性ビブリオ属細菌のべん毛のSリングの構造を、クライオ電子顕微鏡を用いて世界で初めて高解像度で解明しました。この研究により、これまでに唯一報告されていたサルモネラ属細菌のSリングの構造との比較が可能となり、異なる細菌種間での構造的な類似点と相違点を明らかにしました。特に、ビブリオ属細菌に特有の構造最適化メカニズムを発見し、細菌の運動メカニズムに関する理解を深めました。
本研究から、細菌の運動器官の進化に関する新たな知見が得られたこと、そして将来的には細菌の運動性を制御する技術の開発に繋がることが考えられます。これにより、感染症の予防や治療・生体ナノマシンの開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2024年9月6日付米国オンライン科学雑誌『mBio』に掲載されました。
・海洋性ビブリオ属細菌の運動器官(べん毛注1))の足場複合体の高解像度構造をクライオ電子顕微鏡(クライオEM)で初めて解明。
・サルモネラ属細菌との構造比較で、異なる種における類似点と相違点を明確にし、個々の細菌に特異的な構造最適化のメカニズムを発見。
・細菌の運動器官の進化の解明に貢献し、細菌の運動メカニズムの理解を深める。
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注1)べん毛:
真正細菌の最も主要な運動器官であり、直径約20ナノメートルのらせん状の繊維構造。根本に存在する回転モーターを秒速数百~千回転以上の速さで回転させることで、らせん状繊維がスクリューのように働き、細菌を遊泳させる。一部の真核生物やヒトの精子なども有する運動器官『鞭毛』と区別するために、ひらがな混在の『べん毛』と記述することが多い。『鞭毛』が鞭打ち運動をするのに対し、『べん毛』は回転運動であり、太さも『鞭毛』より10倍ほど細い。
雑誌名:mBio
論文タイトル:Structural analysis of S-ring composed of FliFG fusion proteins in marine Vibrio polar flagellar motor
著者:Norihiro Takekawa, Tatsuro Nishikino, Jun-ichi Kishikawa, Mika Hirose, Miki Kinoshita, Seiji Kojima, Tohru Minamino, Takayuki Uchihashi, Takayuki Kato, Katsumi Imada, and Michio Homma ※下線が本学関係教員
DOI: https://doi.org/10.1128/mbio.01261-24
URL: https://journals.asm.org/doi/10.1128/mbio.01261-24
大学院理学研究科 小嶋 誠司 教授
http://bunshi4.bio.nagoya-u.ac.jp/~micro_mot/micro_mot.html