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化学

2024.09.03

電子材料技術の鍵となる新奇ペロブスカイト強誘電体を発見 ~分子レベルの積木細工で、未踏物質の合成に成功~

名古屋大学未来材料・システム研究所の長田 実 教授、名古屋工業大学 生命・応用化学類の漆原 大典 助教、大阪公立大学大学院工学研究科の森 茂生 教授らの研究グループは、分子レベルの積木細工により、従来合成が困難とされていた多層ペロブスカイト(Cs(Bi2Srn-3)(Tin-1Nb)O3n+1; n = 4, 5)の合成に初めて成功し、これらが強誘電体であることを明らかにしました。さらに、この物質系における強誘電性の発現機構の検討を行い、層数が奇数か偶数かにより強誘電体の発現機構がスイッチするユニークな機能を有することを突き止めました。
今回の成果は、強誘電体開発における材料探索空間を大きく拡げ、既存の材料・技術では実現困難な新材料・新機能の開拓への重要な指針を与えるものと期待されます。
本研究成果は、2024年8月26日付米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・分子レベルの積木細工により、従来合成が困難であった多層ペロブスカイト注1)の合成に成功し、新しい強誘電体注2)を発見。
・層数が奇数か偶数かにより、強誘電体の発現機構がスイッチするユニークな機能を発見。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ペロブスカイト:
ロシアの科学者ペロフスキーによって発見された天然鉱物灰チタン石(CaTiO3)。一般式ABO3で表され、TiO6八面体を基本ユニットとした構造。代表的な物質にチタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:略称PZT)などがあり、強誘電体に好適な構造として知られている。
さらに、関連化合物として、ペロブスカイト型構造が他のブロック構造と交互に積層した層状ペロブスカイトがある。層状ペロブスカイトは、層間のブロック構造により、酸化ビスマス層が内包したAurivillius型、アルカリ土類金属イオンが内包したRuddlesden-Popper型およびアルカリ金属イオンが内包したDion-Jacobson型がある。
注2)強誘電体:
絶縁体の一種で、外部より与える電圧の向きに応じて電気分極のプラス、マイナスが反転し、しかも電圧がゼロとなっても分極が保たれる性質を持つ物質。強誘電性を利用したメモリーは、高速書き換えが可能、電源を切っても記憶内容が消えない、消費電力が少ないなどの優れた特徴があり、電車のICカードなどで広く使用されている。
また、強誘電体は、押したり引っ張ったりして結晶を変形させることで電場が発生し、逆に電場をかけることによって結晶が変形したりする圧電性を併せ持つ。この圧電性は、インクジェットプリンタのヘッド、3Dプリンタのマイクロデバイス、各種アクチュエーター、振動発電床などとして広く用いられている。

 

 

【論文情報】

論文誌 :Journal of the American Chemical Society
タイトル:Atomic Layer Engineering of Ferroelectricity in Dion-Jacobson Perovskites
著 者 :森田 秀(名古屋大学大学院工学研究科応用物質化学専攻・博士課程3年)
     漆原大典(名古屋工業大学生命・応用化学類・助教)
     西橋慧太(名古屋大学大学院工学研究科応用物質化学専攻・博士課程1年)
     小林 亮(名古屋大学未来材料・システム研究所・准教授)
     山本瑛祐(名古屋大学未来材料・システム研究所・助教)
     浅香 透(名古屋工業大学生命・応用化学類・准教授)
     中島 宏(大阪公立大学大学院工学研究科・特任准教授)
     森 茂生(大阪公立大学大学院工学研究科・教授)
     長田 実(名古屋大学未来材料・システム研究所・教授)責任著者
DOI: 10.1021/jacs.4c09214
URL: https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jacs.4c09214

 

【研究代表者】

未来材料・システム研究所 長田 実 教授
https://mosada-lab-nagoya.com