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農学

2024.09.30

植物の"体内時計"が正確なしくみを発見 "時計"の進行を抑えるタンパク質が温度に応じて量的変化

名古屋大学大学院生命農学研究科の前田 明里 博士課程後期学生、中道 範人 教授らの研究グループは、環境温度に惑わされず一定のスピードで進行するという生化学反応の一般則から外れた生物時計の重要な性質(周期の温度補償性)のしくみを新たに発見しました。
酵素が失活しない温度範囲において、生化学反応は高温でよりよく進行することが知られています。しかし、複数の生化学反応の組み合わせで成り立つとされている生物時計の進行スピードは、温度に依存せずほぼ一定であることが知られていました。この性質は、周期の温度補償性とよばれていますが、どのようなしくみが温度補償性の源となっているかは不明でした。
本研究では、植物の時計のブレーキ役として知られていたTOC1とPRR5タンパク質が温度補償性に関わることを明らかにしました。また、これらのタンパク質は、低温で積極的に分解されること、この低温依存的な分解にはLKP2という酵素が関わることを発見しました。本研究で見つかった時計タンパク質の温度依存的な制御は植物にとどまらず、他の生物種における温度補償性の分子モデルを理解する上で重要な手掛かりとなります。また、未解明な点が多い植物の温度受容システムを理解する新たな突破口につながることが期待されます。
本研究成果は、2024年9月28日午前0時(日本時間)付米国科学振興協会(AAAS)のオープンアクセス雑誌『Science Advances』に掲載されます。

 

【ポイント】

・一般的に生命現象や生化学反応の進行は温度に依存するが、この法則に反して体内時計(生物時計、概日時計注1)ともいわれる)は温度に抗って一定のスピードで進行するという性質を持つ(周期の温度補償性)。
・本研究では、時計の針の進行を遅らせる働き(ブレーキの役割)がある2種類の時計タンパク質が低温で分解されることが、温度補償性に関わることを見出した。
・さらに、これらタンパクの低温での積極的な分解を担うとして、低温センサーLKP2を発見した。
・本研究で見出された温度受容システムは、植物の概日時計の温度補償性制御に関わる初めての例である。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)概日時計:
多くの生物に遺伝的に備わった約24時間の自律的に振動する生物システムで、様々な生理現象のはたらく時刻や時間を1日の昼夜サイクルに合わせる。また概日時計を使って環境の日長を測定して、適切な季節に繁殖を行う生物も多い(光周性反応)。

 

【論文情報】

雑誌名:Science Advances
論文タイトル:Cold-induced degradation of core clock proteins implements temperature compensation in the Arabidopsis circadian clock
著者:前田明里、松尾宏美、村中智明、中道範人(名古屋大学大学院生命農学研究科)

DOI:10.1126/sciadv.adq0187
                                     

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 中道 範人 教授
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