名古屋大学大学院生命農学研究科の市川 怜 博士後期課程学生、松山 秀一 准教授らの研究グループは、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の木村 康二 教授との共同研究で、牛の子宮内で細胞外小胞に含まれるmicroRNAが胚の発育を阻害し、受胎率低下を引き起こしている可能性を見出しました。牛の胚は、受精後に卵管から子宮へ移行し、その後約3週間は子宮に着床することなく子宮内腔を浮遊しながら紐状に伸長することが知られています。そして、着床するまでの間、胚の発育は子宮腺から分泌される因子に依存しています。さらに、子宮内に存在する細胞外小胞にはmicroRNAが含まれており、遺伝子発現を調節することで着床前の胚と母体とのコミュニケーションを媒介していると考えられています。
本研究では、不妊傾向にある牛の子宮内細胞外小胞で高発現している8種類のmicroRNAを同定しました。この8種類のmicroRNAをリポフェクション法により胚に導入すると、胚の細胞増殖、分化、代謝に関与するMAPKシグナル経路と胚から分泌されて妊娠維持に重要な役割を果たすインターフェロンタウの遺伝子発現が抑制されました。本研究成果は、牛における受胎率低下の要因解明や受胎率向上技術の開発に貢献するものと期待されます。
本研究成果は、2024年10月19日付 学術雑誌「FASEB Journal」に掲載されました。
・牛における不妊の主な原因は着床前における胚の死滅だが、その機序は未解明である。
・妊娠しづらい牛と正常に妊娠する牛とでは、子宮内の細胞外小胞に含まれるmicroRNAの発現パターンが異なっていた。
・妊娠しづらい牛の子宮内で高発現だったmicroRNAを胚に導入したところ、MAPKシグナル経路やインターフェロンタウの遺伝子発現が抑制された。
・本研究は、牛における受胎率低下の要因解明や受胎率向上技術の開発に貢献することが期待される。
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雑誌名:The FASEB Journal
論文タイトル:Effects of intrauterine extracellular vesicle microRNAs on embryonic gene expression in low-fertility cows
著者:Rei Ichikawa1, Koji Kimura2, Sho Nakamura1, Satoshi Ohkura1, Shuichi Matsuyama1*(所属:1名古屋大学大学院生命農学研究科、2岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域)
DOI: 10.1096/fj.202401728R
大学院生命農学研究科 松山 秀一 准教授
主著者:市川 怜 博士後期課程学生