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工学

2024.10.28

流体が乱れる・乱れないの新たな境目を発見 ~複雑流体による流体輸送の省エネ、流動制御に貢献~

名古屋大学大学院工学研究科の日出間 るり 教授の研究グループは、神戸大学、イギリスのThe University of Liverpoolとの共同研究で、高分子を極めて低濃度で添加した流体の流動挙動が、安定化(層流化)、不安定化(乱流化)注1)する現象について、その境界を新たに発見しました。
高分子を添加した流体において、レイノルズ数(Re)注2)の大きな条件下で流体の乱れが抑えられる抵抗低減(DR)注3)という現象が観察されることは長年知られていたことでした。これに対して近年、乱流が生じるRe領域のうち、Reが比較的小さな条件では、高分子の添加が流体を完全に層流化させたり、高分子の弾性に由来する特殊な乱れを誘発し乱流化させたりする現象が見いだされました。しかし、これらの現象は流体の流速や高分子の濃度に比例しない、非線形性を伴うため定量化が難しく、高分子を添加した流体における層流と乱流の境目や、この変化が生じる条件は明らかとなっていませんでした。
本研究は、高分子の伸長と緩和(直線状の高分子が伸びた後、元の形に戻ること)という形態変化と、Reで決まる条件によって、流体の層流・乱流が決まることを明らかにしました。流動場の層流・乱流を制御することにより、流体輸送の省エネルギー化、効率的な攪拌技術の開発、高分子溶液の射出制御など、流体関連プロセスの技術革新への貢献が期待されます。
本研究成果は、2024年10月25日22時(日本時間)に国際学術誌『Physics of Fluids』に掲載されます。

 

【ポイント】

・高分子を流体に添加すると、流体が流れる際に乱れる・乱れない領域が突然変わることが知られていたが、その境目や変化が生じる条件は明らかになっていなかった。
・本研究により、流体内での高分子の動きが、流体全体の流れ方を決めることが分かった。
・流体輸送の省エネルギー化や効率的な攪拌(かくはん)技術の開発など、流体関連プロセスの技術革新への貢献が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)安定化(層流化)、不安定化(乱流化):
流体が流動する際、乱れの無い安定した流れを層流、不安定な乱れた流れを乱流と呼ぶ。流体が層流化するか、乱流化するかは、レイノルズ数(Re)という無次元数で表され、通常Reが2300以上で乱流になる。
注2)レイノルズ数(Re):
流体の流動挙動を定量化する無次元数で、慣性力と粘性力の比として表される。
注3)抵抗低減(DR):
高分子を添加した溶液は、Reが2300を超えても乱流に変化しにくい。この現象を抵抗低減と呼ぶ。

 

【論文情報】

雑誌名:Physics of Fluids
論文タイトル:Polymer-doped two-dimensional turbulent flow to study the transition from Newtonian turbulence to elastic instability
著者:Kengo Fukushima (福嶋賢悟)1, Haruki Kishi (岸治希)1, Ryotaro Sago (佐合涼太郎)1, Hiroshi Suzuki (鈴木洋)1, Robert J. Poole2, Ruri Hidema (日出間るり)3* (*責任著者)
1. 神戸大学, 2. University of Liverpool, 3.名古屋大学
DOI: 10.1063/5.0225654

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 日出間 るり 教授
https://hidema.mae.nagoya-u.ac.jp/complexfluids