名古屋大学大学院理学研究科の阿部 洋教授(糖鎖生命コア研究所 統合生命医科学糖鎖研究センター分子生理・動態部門 教授)、乙竹 真美博士後期課程学生、稲垣 雅仁特任助教らの研究グループは、既存のmRNA医薬の効果を上回る次世代型の完全化学合成mRNAおよび環状mRNAの高効率な合成法を開発しました。mRNAは、コロナワクチンなどの感染症予防や、さまざまな遺伝性疾患の治療に利用されることが期待されています。しかし、現行のmRNAは体内で不安定で効果の持続性が低いことや、製造過程で副生成物が生じ、純度が低いために炎症などの副作用が問題となっていました。これらの問題を解決する手段として、高純度かつ生体内で安定性の高い次世代型の完全化学合成mRNAおよび環状mRNAの開発が求められていました。しかし、これまでこれらのmRNAの製造がボトルネックとなり、医療応用研究が進展していませんでした。今回、製造過程で重要な中間体である5´モノリン酸化RNAを高純度で合成する方法を開発し、完全化学合成mRNAおよび環状mRNAの高効率な製造法を確立しました。
この成果は、完全化学合成mRNAおよび環状mRNAをはじめとする、従来のmRNAよりも優れた次世代mRNA医薬の開発に向けたRNA創薬研究の加速に貢献し医療応用が推進されます。本研究成果は、2024年10月17日午前9時01分(日本時間)付オックスフォード大学出版局が発行する雑誌『Nucleic Acids Research』に掲載されます。
・数十塩基から数千塩基の5´モノリン酸化RNA注1)の高純度合成技術を開発。
・本技術を活用することにより、完全化学合成mRNA注2)や環状mRNA注3)の高効率合成が実現。
・超高純度の次世代mRNAにより、効果の持続性が高く副作用が少ない医薬品の開発に寄与。
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注1) 5´モノリン酸化RNA:
RNA鎖には5´末端ヒドロキシル基と3´末端ヒドロキシル基が存在し、5´ヒドロキシル基上にリン酸基が付加されたRNAを意味する。
注2) 完全化学合成mRNA:
酵素反応を介さずに全工程が化学反応により製造されるmRNAである。合成できる長さに制限があるが、位置特異的な化学修飾の導入により活性向上が期待できる。
注3) 環状mRNA:
末端構造を持たない輪っかのような形を持つmRNAである。核酸分解酵素や免疫受容体に認識されにくいといった特徴を持つため、その医薬応用が期待されている。
雑誌名: Nucleic Acids Research
論文タイトル: Development of hydrophobic tag purifying monophosphorylated RNA for chemical synthesis of capped mRNA and enzymatic synthesis of circular mRNA
著者: 乙竹真美(名古屋大学), 稲垣雅仁(名古屋大学), 木村誠悟(名古屋大学), 恩田馨(名古屋大学), 川口大輔(名古屋大学), 村瀬裕貴(名古屋大学), 多田瑞紀(名古屋大学), 福地康佑(名古屋大学), Gao Yinuo(名古屋大学), 小久保建吾(名古屋大学), Acharyya Susit(名古屋大学), Meng Zheyu(名古屋大学), 石田竜真(名古屋大学), 河崎泰林(名古屋大学), 阿部奈保子(名古屋大学), 橋谷文貴(名古屋大学), 木村康明(名古屋大学), 阿部洋(名古屋大学)* (*は責任著者)
DOI: 10.1093/nar/gkae847
URL: https://academic.oup.com/nar/article-lookup/doi/10.1093/nar/gkae847