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化学

2024.11.15

新規反芳香族化合物の合成法を開発 ~近赤外光による熱発生を利用したがん治療などに期待~

名古屋大学大学院工学研究科の忍久保 洋 教授、髙野 秀明 助教、Wang Kaisheng(ワン カイシェン)博士研究員らの研究グループは、東京都立大学大学院理学研究科 石田 真敏 准教授、Aninda Ghosh博士後期課程学生、大阪大学大学院基礎工学研究科 岸 亮平 准教授、京都大学大学院工学研究科 清水 大貴 助教との共同研究で、反芳香族化合物であるノルコロール注4)に対して芳香族化合物であるアントラセン注5)を連結することでπ共役系を拡張した新規反芳香族化合物を合成する方法を開発しました。また、合成した化合物が1500 nmにまでおよぶ広範囲の近赤外光を吸収することを見いだし、吸収した光を効率的に熱へと変換できることも明らかにしました。
反芳香族化合物は近赤外光を弱いながらも吸収する性質をもつことがこれまでに知られていました。反芳香族化合物であるノルコロールも1100 nmまでの近赤外光を吸収する特性をもちますが、その光吸収効率は非常に低いものでした。本研究では、アントラセンをノルコロールに対して縮環注6)させることでπ共役系を拡張し、ノルコロールの光吸収の性能を大幅に向上させるとともに、さらに第二近赤外光の領域まで長波長化することに成功しました。また、近赤外レーザーを用いた測定により優れた光熱変換特性を示すことを見いだしました。近赤外光は可視光に比べ生体に対する透過性が高く、生体組織の内部にまで届くことが知られています。このため、光吸収によって発生する熱を活用したがん治療等への応用が期待されます。
本研究成果は、2024年10月31日(日本時間)付『アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション』オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・反芳香族化合物注1)のπ共役系注2)を拡張した分子の新たな合成法を開発した。
・これにより1500 nmにまでおよぶ近赤外光注3)を吸収することが可能となった。
・吸収した近赤外光を効率的に熱に変換できることを見いだした。光を使ったがん治療などへの応用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)反芳香族化合物:

多くの二重結合がつながった環状構造をもつ有機化合物であるが、芳香族化合物とは二重結合の数が異なり、含まれるπ電子の数が異なっている。

注2)π共役系:

多数の二重結合でつながった有機化合物はπ共役化合物と呼ばれ、光の吸収や電子の授受など構造に応じて多様な性質を示す。π共役化合物の構造中の二重結合でつながった部分をπ共役系という。

注3)近赤外光:

750〜2500 nmの波長をもつ光を近赤外光と呼ぶ。この中でも特に、生体透過性が高く医療やバイオ分野でよく利用されるのは、波長750〜1000 nmの「第一近赤外光」および波長1000〜1700 nmの「第二近赤外光」である。

注4)ノルコロール:

4つのピロール環を構成ユニットとした反芳香族化合物。

注5)アントラセン:

ベンゼン環が3つ連なった芳香族化合物。

注6)縮環:

2つの環状化合物を連結する際にそれぞれの環の辺を共有するように分子をつなぐ形式。π共役系を縮環させると二重結合が効果的につながり、π共役系が拡張される。

 

【論文情報】

雑誌名:Angewandte Chemie International Edition

論文タイトル:Bowl-Shaped Anthracene-Fused Antiaromatic Ni(II) Norcorrole: Synthesis, Structure, Assembly with C60, and Photothermal Conversion

著者:K. Wang (名古屋大学), A. Ghosh(東京都立大学), D. Shimizu(京都大学), H. Takano (名古屋大学), M. Ishida(東京都立大学), R. Kishi(大阪大学), and H. Shinokubo(名古屋大学)

DOI:10.1002/anie.202419289                               

URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202419289

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 忍久保 洋 教授
http://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/organic1/index.html