名古屋大学工学研究科の松田 亮太郎 教授らの研究チームは、気体を溶解する性質が強いパーフルオロカーボン類を用いて、まったく新しい多孔性の金属-有機構造体(Metal-organic Framework: MOF)の合成に成功しました。このMOF結晶は、気体分子の「吸着」「溶解」両方の性質を併せ持ち、「吸着溶解」現象と呼べる新しいメカニズムで気体を捕捉する機能を有することがわかりました。この「吸着溶解」現象を利用して、極めて分離困難な酸素とアルゴンの混合気体から酸素を濃縮し分離できることを明らかにしました。
水や油などの液体は気体分子を溶解して取り込む性質があり、二酸化炭素や有害な気体の分離のために工業利用されています。一方、ゼオライト注5)、活性炭やMOFなどの多孔性固体は、内部にナノサイズの細孔を無数に有し、これにより気体分子を吸着する性質を備えています。これらの多孔性固体も、液体と同様に気体を分離する材料として工業利用されています。本研究では、この吸着と溶解の両方の利点を併せ持つ、まったく新しい気体分離材料の開発を目的としました。新開発のMOF(F-MOF)は、細孔中でパーフルオロカーボン類があたかも液体のように構造を変化させ、酸素分子を捕獲する性質を持つことが確認されました。実際にF-MOFを用いて、極めて分離困難とされる酸素とアルゴンの混合ガスから酸素を分離・濃縮できることを実験的に確かめました。今後、これまで分離困難だった気体の効率的な分離への応用が期待され、脱炭素社会の実現に資する省エネルギー材料への展開が見込まれます。
本研究成果は2024年11月22日付の英科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」オンライン版に掲載されました。
・気体を溶解する性質が強いパーフルオロカーボン注1)類を用いて、まったく新しい多孔性注2)の金属-有機構造体(Metal-organic Framework: MOF)注3)の合成に成功した。
・固体中のナノサイズの細孔に気体分子が「吸着」注4)する現象と、パーフルオロカーボン類が気体を「溶解」する現象の両方を多孔性のMOF結晶中で同時に発現させること(吸着溶解)に成功した。
・この新材料で可能になった「吸着溶解」現象を利用して、分離が極めて難しい酸素とアルゴンの混合気体から効率的に酸素を分離することを実証した。酸素を濃縮し利用する様々な応用分野で利用されることが期待される。
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注1)パーフルオロカーボン:
化学式CmFnで表される、末端の全てにフッ素原子が結合している炭素鎖からなる化合物。
注2)多孔性:
固体内部に気体や液体分子が通過できる微細な空間や穴(細孔)があること。
注3)Metal-Organic Framework(略称 MOF):
金属イオンおよび、金属イオンと配位結合する部位を2箇所以上持つ有機配位子が交互に結合することで生成する多孔性の配位高分子。
注4)吸着:
分子が固体の表面に引き付けられて濃縮される現象。多孔性固体は細孔を多く持つため、体積や重量当たりの表面積(比表面積)が大きいため、多くの分子を吸着することができる。身の回りでは活性炭などの多孔性固体が匂いの元となる分子を吸着する脱臭剤として広く使われている。
注5)ゼオライト:
ケイ素、アルミニウムおよび酸素を主成分とする結晶性の多孔性固体で、吸着や触媒材料として利用されている。
雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Adsorptive-dissolution of O2 into the potential nanospace of a densely fluorinated metal-organic framework
著者:日下 心平(名古屋大学)、伊藤 有優(名古屋大学)、堀 彰宏(名古屋大学)、薄葉 純一(名古屋大学), Jenny Pirillo (名古屋大学)、土方 優(名古屋大学)、馬 運声 (名古屋大学)、松田 亮太郎(名古屋大学)
DOI:10.1038/s41467-024-54391-y
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-024-54391-y
大学院工学研究科 松田 亮太郎 教授
主著者:大学院工学研究科 日下 心平 助教
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/solid1/