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工学

2024.11.26

超自然的な高錫組成14族半導体結晶薄膜を合成 ~中・遠赤外光電子デバイス、超高速・超省電力電子デバイス創出へ期待~

名古屋大学大学院工学研究科の中塚 理 教授、柴山 茂久 助教らの研究グループは、従来組成を大きく超えた50%以上の極めて高い錫組成を有する14族ゲルマニウム錫単結晶(エピタキシャル)薄膜の創製に成功しました。
シリコンをはじめとする14族元素は世界で最も活用されている半導体材料の一つであり、スマートフォンを含む各種情報処理機器に不可欠の超々大規模集積回路(ULSI)や、太陽光から直接電気エネルギーを生み出す太陽電池の製造に必要不可欠な役割を占めています。 
従来、14族元素を用いた半導体混晶では、高い錫組成を有する単結晶薄膜の合成には限界があり、遠赤外線のような数μmの長い波長の光(電磁波)に対応する、ゲルマニウム錫混晶半導体の製造には限界がありました。今回、当研究グループは、結晶成長技術を駆使し、通常、自然界には存在しない52%に達する極めて高い錫組成を有するゲルマニウム錫単結晶薄膜の創製を世界に先駆けて実証しました。
今回創製されたゲルマニウム錫単結晶薄膜は、従来の錫含有14族混晶の錫組成・膜厚を大きく超えるものです。さらに、従来のシリコンゲルマニウム混晶で見られるような乱雑(disordered)構造ではない、全く新しい閃亜鉛鉱型のような規則系14族混晶の形成を示唆する実験結果も得られています。
これらの成果は、シリコン集積回路に好適に融合可能な狭バンドギャップ14族混晶半導体の製造に繋がるものです。本成果を基盤として、既存のシリコン集積回路に効果的・効率的に混載可能な、中・遠赤外の長波長領域に対応する半導体受光・発光デバイスや超高速・超省電力の半導体電子デバイスなどの創出が今後、期待されます。
本研究成果は、2024年11月26日付IOPscience社発行の国際学術誌『Applied Physics Express』に掲載されます。

 

【ポイント】

・熱平衡固溶限界を数十倍超えて52%に達する極めて高い錫(スズ)組成を有するゲルマニウム錫混晶注1)単結晶薄膜の合成を実証した。
・数μmの波長を超える中・遠赤外領域に到達する極狭ギャップの14族混晶半導体の単結晶薄膜創製技術に向けた指針を示した。
・ゲルマニウム-錫の原子結合構造の分析から、従来にない規則的結晶構造を有するゲルマニウム錫混晶の形成を示唆する結果を得た。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ゲルマニウム錫(GeSn)混晶:
GeとSnが混ざりあった結晶。通常、常温・常圧でSi、Ge、SiGe混晶などと同様のダイヤモンド型の結晶構造を取る。Geよりも狭いバンドギャップ、10%程度以上のSn組成で直接遷移化する特徴を持ち、近年、赤外線受発光デバイスをはじめ、様々な電子デバイスへの応用が期待されて、世界中で研究開発が進められている。

 

【論文情報】

雑誌名:Applied Physics Express
論文タイトル:Epitaxial growth of Ge1-xSnx thin film with Sn composition of 50% and possibility of Ge-Sn ordered bonding structure formation
著者:Shigehisa Shibayama1, Kaito Shibata1, Mitsuo Sakashita1, Masashi Kurosawa1, and Osamu Nakatsuka1,2 (所属:1Graduate School of Engineering, Nagoya University, 2Institute of Materials and Systems for Sustainability, Nagoya University)
S. Shibataは本学大学院博士前期課程学生、その他4名は本学教員
DOI:10.35848/1882-0786/ad9190 
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/ad9190

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 中塚 理 教授
主著者 大学院工学研究科 柴山 茂久 助教
https://alice.xtal.nagoya-u.ac.jp/nanoeledev/