名古屋大学大学院工学研究科の野呂 篤史 講師(未来社会創造機構 マテリアルイノベーション研究所および脱炭素社会創造センター兼務)らの研究グループは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」において、次世代燃料電池における100℃以上の高温・低湿度環境でも良好な伝導率を示す電解質材料の新しい設計コンセプトを発表しました。
従来の電解質膜は、100℃以下の低温、高湿度環境での使用が前提となっており、100°C超かつ低湿度環境(たとえば120℃、20%RH)での伝導率が0.26 mS/cm注9)まで低下してしまうものもあります。また、電解質材料として、フッ素系のPFAS関連ポリマーが用いられることも多く、新材料が求められてきました。
今回開発した炭化水素スペーサーを持つホスホン酸ポリマーの電解質膜は、120℃、20%RHで4倍の1.1 mS/cmを示し、電解質材料としての有効性を確認しました。
燃料電池は、すでに燃料電池自動車や家庭用燃料電池コジェネレーションシステム(エネファーム)で実用化されていますが、今後は100℃以上の高温・20%RH程度の低湿度条件での運転が求められます。本研究で提示したコンセプトに基づくさらなる材料改良により、脱炭素に資する次世代燃料電池の開発の大きな進展が期待されます。
本研究成果は、2024年12月10日に米国化学会雑誌『ACS Applied Polymer Materials』に掲載されました。
・100℃以上の高温・低湿度環境で良好な伝導率注1)を示す電解質注2)の新設計コンセプト
・120℃、20%RH注3)で従来材料の4倍の伝導率を実現
・PFAS規制注4)に対応した、炭化水素注5)スペーサー注6)を持つホスホン酸ポリマー注7)
・さらなる材料改良により、脱炭素に資する次世代燃料電池注8)の開発に大きく寄与
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注1)伝導率:
イオンの移動のしやすさ、輸送のされやすさ。イオンの伝導のしやすさ。数値が大きいほど高いイオン伝導性を示す。
注2)電解質:
溶媒(特に水)に溶解した際に、陽イオンと陰イオンに電離する物質のこと。ひも状分子であるポリマー(高分子)が電解質である場合、高分子電解質と呼ばれる。
注3)RH(Relative Humidity):
相対湿度を表す単位。ある温度での飽和状態の水蒸気量に対する水蒸気量の割合。
注4)PFAS規制:
PFASとは、炭素とフッ素からなる有機フッ素化合物のうち、パーフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物をまとめて記したもの。PFAS規制とは、PFASの製造や輸入、製品への使用禁止に関する規制のこと。
注5)炭化水素:
炭素原子と水素原子から成り立っている化合物の総称。炭素原子、水素原子以外の原子を含んでいてもよい。
注6)スペーサー:
ある官能基(特定の化学構造を持つ基、原子団。)と別の官能基の間に挟みこまれる化学的な活性を有さない官能基。直鎖の炭化水素官能基であるアルキレン基(化学構造としては-(CH2)n-)など。アルキレン基は疎水性スペーサーとして用いられる。
注7)ホスホン酸ポリマー:
中程度の酸性を示す官能基であるホスホン酸基(-PO3H2)を有したポリマー(分子量の大きなひも状の分子)。
注8)燃料電池:
水素と酸素を電気化学的に反応させて電気を発生させる装置。反応時に水を生成する。二酸化炭素は生成しない。燃料電池自動車や家庭用燃料電池コジェネレーションシステム(エネファーム)等に用いられている。固体高分子形燃料電池(PEFC)や固体酸化物形燃料電池(SOFC)など、いくつかの種類がある。燃料電池は英語ではfuel cellと記すため、略してFCと呼ばれる。
注9)mS/cm:
伝導率の単位。ミリジーメンスパーセンチメートル。
雑誌名:ACS Applied Polymer Materials
論文タイトル:Polymer Electrolyte Membranes of Polystyrene with Directly Bonded Alkylenephosphonate Groups on the Side Chains
著者:中山孟紀(研究当時名古屋大学大学院生)、梶田貴都(名古屋大学研究員)、西本実緒(名古屋大学研究員)、田中春佳(名古屋大学研究員)、佐藤克海(研究当時名古屋大学大学院生)、MARIUM, Mayeesha(公益財団法人高輝度光科学研究センター)、MUFUNDIRWA, Albert(公益財団法人高輝度光科学研究センター)、岩本裕之(公益財団法人高輝度光科学研究センター)、野呂篤史(名古屋大学講師)
DOI:doi.org/10.1021/acsapm.4c02688
大学院工学研究科 野呂 篤史 講師
https://phys-chem-polym.chembio.nagoya-u.ac.jp/