名古屋大学大学院理学研究科の野間 健太郎 准教授らの研究グループは、線虫(C. elegans )注2)を用いた研究から、脳機能の老化がニューロンの過剰な活性化により引き起こされることを発見しました。
脳は多数のニューロンが活性化することによってその機能を発揮します。そのため脳機能の老化は、個々のニューロンの機能低下により起こると考えるのが自然かもしれません。しかしながら本研究では、加齢に伴ってニューロンが過剰に活性化することによって、線虫の連合学習行動が阻害されることを見出しました。つまり、老化した脳ではニューロンの活性化と抑制のバランスが崩れているようです。
加齢によるニューロンの過剰な活性化は我々ヒトでも報告されています。線虫とヒトは見た目こそ大きく違いますが、設計図(遺伝子)の多くを共有しています。本研究のように線虫を使った老化や学習の研究から、我々の脳機能がどのように老化するのかに関する新たな知見が得られるかもしれません。
本研究成果は、2025年1月7日付米国学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) 』に掲載されました。
・線虫の連合学習注1)能力は加齢に伴って減弱する。
・加齢に伴って一部のニューロン(神経細胞)が過剰に活性化する。
・過剰に活性化したニューロンを除去すると、加齢しても連合学習能が保たれる。
・ニューロンの過剰な活性化が連合学習能の老化を引き起こす。
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注1)連合学習:
動物が二つの刺激を関連付けて学習すること。本研究では、線虫が温度とエサの情報を関連付けて学習し、過去の飼育温度に移動する温度走性行動を連合学習の指標として用いた。
注2)C. elegans:
非感染性の線形動物で生物学の研究に広く用いられている。世代時間が3日、寿命が2週間程度と短く、たった302個の神経細胞を使って様々な行動を示す。さらに体長が1mm程度と小さいことから、多個体を用いた寿命や行動の解析が容易である。これらの利点をいかして、当研究室では線虫を用いて神経機能が老化するメカニズムの解明に取り組んでいる。
雑誌名: Proceedings of the National Academy of Sciences
論文タイトル:Aberrant neuronal hyperactivation causes an age-dependent behavioral decline in Caenorhabditis elegans
著者:Binta M. Aleogho, Mizuho Mohri, Moon Sun Jang, Sachio Tsukada, Yana Al-Hebri, Hironori J. Matsuyama, Yuki Tsukada, Ikue Mori, and Kentaro Noma (著者は全て本学の現あるいは元関係者)
DOI:10.1073/pnas.2412391122
URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2412391122