名古屋大学大学院生命農学研究科の加藤 優太 研究員(現所属:京都大学農学研究科)、大井 崇生 助教(現所属:高知工科大学理工学群)、谷口 光隆 教授、および名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所ライブイメージングセンターの佐藤 良勝 特任准教授らのグループは、これまで観察が困難であった、複数の細胞層で構成される厚い葉の内部を生きたまま観察可能な新手法「葉切片ライブイメージング」を開発しました。この手法を用いて、2種の光合成細胞(葉肉細胞注3)、維管束鞘細胞注4))の分業によりCO2を効率よく固定できるC4植物の葉緑体運動を経時的に長時間観察することに成功しました。
葉緑体は環境変化に応答して細胞内で配置を変え、代謝を最適化しています。本研究では、葉肉細胞の葉緑体が青色光に応答して維管束鞘細胞側に凝集運動する様子をライブ観察し、隣接する維管束鞘細胞の破壊により凝集しないことを見出しました。このことは、葉肉細胞の葉緑体運動は維管束鞘細胞からのシグナルにより誘導され、2種の細胞間のコミュニケーションの下に制御されることを意味します。
本研究では、変動する環境下におけるC4植物の効率的な光合成が調整されるメカニズムの一端を解明できたことに加え、新たに開発した葉切片ライブイメージングは葉緑体運動に限らず、解析困難であった葉内の生理応答を可視化できる画期的手法です。
本研究成果は、2025年2月3日19時(日本時間)付国際科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されます。
・これまで観察が困難だった厚い葉の内部を生きたまま観察可能な新手法「葉切片ライブイメージング」を確立。
・上記手法を用い、2種の光合成細胞を利用して高効率の光合成を行うC4植物注1)における葉緑体注2)の運動が、隣接する細胞とのコミュニケーションの下に起こることを発見。
・葉切片ライブイメージングにより、これまで解析が困難であった葉内の生理応答を直接観察する研究が進むと期待される。
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注1)C4植物:
CO2を葉組織内で濃縮して光合成を行う回路を持つ植物。その濃縮回路は、初期化合物の炭素数が4つであることからC4回路と呼ばれる(基本的な炭素固定を行うカルビン回路はC3回路と呼ばれ、イネなどの一般的な植物の多くはC4回路を持たないC3植物である)。トウモロコシやキビ、シコクビエなどの高温でも生育旺盛な穀物や、ローズグラスやシバなどの環境ストレスに強い牧草類や被覆植物が挙げられる。
注2)葉緑体:
植物細胞内に存在する細胞小器官で、光エネルギーを利用し有機物の合成、すなわち光合成を行う。また、葉緑体は光をはじめとした様々な環境変化に応じて細胞内で動き、この葉緑体運動は効率的な光利用やストレスの軽減などに寄与している。
注3)葉肉細胞:
維管束と上下の表皮の間に詰まった葉緑体を含む柔細胞。一般的なC3植物では主に葉肉細胞の葉緑体のみで光合成を行うが、C4植物では葉肉細胞と維管束鞘細胞が連携して光合成を行う。
注4)維管束鞘細胞:
維管束を取り囲む筒状の“維管束鞘”を構成する細胞。一般的なC3植物では葉緑体が小型で少ないが、C4植物では大型の葉緑体が局在してC4光合成回路によるCO2濃縮を行う。
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Bundle sheath cell-dependent chloroplast movement in mesophyll cells of C4 plants analyzed using live leaf-section imaging
著者:加藤優太、大井崇生、佐藤良勝(共同責任著者)、谷口光隆(責任著者)。
下線は現名古屋大学教員
DOI: 10.1038/s41598-025-86153-1
URL: https://doi.org/10.1038/s41598-025-86153-1
大学院生命農学研究科 谷口 光隆 教授, 主著者:加藤 優太
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~shigen/