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農学

2025.03.12

タウリンが作用しコレステロールを下げる遺伝子を発見! アンチエイジング機能など、メカニズムの全容解明へ――

名古屋大学大学院生命農学研究科の小田 裕昭 准教授の研究グループは、動脈硬化症注1)などの原因になる血中コレステロールをタウリン注2)が効果的に低下させる分子的な作用メカニズムを明らかにしました。本研究では、タウリンが高コレステロール血症注3)を改善するメカニズムに関する標的遺伝子を発見しました。
海産物に多いアミノ酸であるタウリンは、脳、心臓、筋肉、肝臓の健康に重要なことが分かっており、動脈硬化症、脳卒中などの予防に効果的なことがよく知られています。最近になりそのアンチエイジング機能注4)が分かり、全身の健康に重要なアミノ酸であることが注目されるようになってきました。しかし、比較的低分子の水溶性のアミノ酸であるタウリンが、どのようにして全身の健康に関与するのかその分子的なメカニズムは明らかにされていませんでした。
これまで本研究グループは、タウリンが効果的に血中コレステロールを低下させることを見出し、そのメカニズムとしてコレステロールの異化代謝、つまり胆汁酸注5)の代謝が促進されることを明らかにしてきました。しかし、どのようにしてコレステロールの異化代謝が促進されるかは十分に分かっていませんでした。
今回、ラット肝臓とラットの3次元初代培養肝細胞注6)を使って、タウリンが直接作用する遺伝子を探索した結果、メチル化などに関与するBHMT注7)とイオンの輸送体であるOATP2注8)が直接の標的遺伝子であることが分かりました。これらの遺伝子の変化がコレステロール異化代謝を促進して血中コレステロールを低下させたと考えられます。
さらに本研究成果は、タウリンの全身に与える作用もこれらの遺伝子の変化を介して行われている可能性を示唆しており、アンチエイジングのメカニズムの解明につながる可能性があります。
本研究成果は2024年8月、スイス科学雑誌「Antioxidants」に掲載されました。

 

【ポイント】

・寿命延長など多彩な機能を持つタウリンの作用メカニズムはほとんど分かっていない。
・タウリンは血中コレステロールを効果的に低下させることが分かっている。
・今回、タウリンが直接作用してコレステロールを低下させる遺伝子を発見した。今後タウリンの作用の全容が分かる可能性がある。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)動脈硬化症:
動脈が硬くなって弾力性が失われた状態の病気のことを指す。血管壁にプラークがついて血管内が狭くなったことにより、血栓が生じたりして血管が詰まりやすくなる。
注2)タウリン:
海産物に多く含まれるアミノ酸の一種で、浸透圧の調節や脂質代謝正常化作用が知られている。最近、寿命を伸ばすアミノ酸であることが分かり、注目を浴びている。体内でも合成されるが、食事から摂取することで効果を示すことが知られている。
注3)高コレステロール血症:
血中コレステロール濃度が高い状態を指す。LDL-コレステロール(悪玉コレステロールと言われる)が多く、HDL-コレステロール(善玉コレステロールと言われる)が少ないと動脈硬化が進みやすいことがわかっている。本実験においても、ラットで悪いコレステロールのVLDL-コレステロールの増加をタウリンが抑えることを示した。
注4)アンチエイジング機能:
抗老化作用のことで、老化を遅らせて寿命を伸ばす機能を指す。食事制限やカロリー制限による抗老化作用がよく知られており、それに関わる遺伝子も多く特定されている。今回のタウリンはこれまでのカロリー制限とは異なる作用でアンチエイジングに効くと考えられている。
注5)胆汁酸:
食事からの脂質や脂溶性ビタミンの吸収に必要な化合物であり、体内でコレステロールから合成される。胆汁酸はコレステロールを体外排泄するための最終産物としての役割もある。したがって、胆汁酸は脂質吸収を助け、その一部が体外に排泄されることによって、体内の脂質やコレステロール恒常性維持に寄与している。
注6)3次元初代培養肝細胞:
肝臓の機能を細かく調べるために、肝細胞を培養して調べることが多い。しかし多くの肝細胞株はがん細胞であり、機能が低いことが分かっている。そこで肝臓から分離した肝細胞を培養する方法が考案され、それを初代培養と呼んでいる。この初代培養肝細胞を3次元培養することにより、肝臓に近い機能を発揮させることを本研究グループが明らかにしてきている。
注7)BHMT:
ベタイン・ホモシステイン・S-メチルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素の略号。心筋梗塞や脳梗塞の原因と考えられているホモシステインをメチオニンに変換する酵素。メチオニンはタンパク質に取り込まれたり、システインになる。そして、メチオニンのメチル基が遺伝子のエピジェネティックな制御に利用される。
注8)OATP2:
有機陰イオン輸送体2の略号。マイナスイオンを保つ有機物を血液から肝細胞へ取り込む役割をしている。胆汁酸や薬剤などの肝細胞への取り込みを制御することが知られている。

 

【論文情報】

雑誌名:Antioxidants
論文タイトル: Direct molecular action of taurine on hepatic gene expression associated with the amelioration of hypercholesterolemia in rats.
著者: Song Qi, Kobayashi Satoru, Kataoka Yutaro, and Oda Hiroaki  
すべて名古屋大学
DOI: 10.3390/antiox13080990
URL: https://www.mdpi.com/2076-3921/13/8/990

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 小田 裕昭 准教授
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~nutr/oda/oda.html