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化学

2025.04.25

ナノ炭素材料"ナノグラフェン"の水素化に新手法 水素ガス不要、極少溶媒で安全・低コスト・高速な合成が可能に

名古屋大学大学院理学研究科の伊藤 英人 准教授、遠山 祥史 博士後期課程学生、理化学研究所 開拓研究所の伊丹 健一郎 主任研究員(理化学研究所 環境資源科学研究センター 拡張ケミカルスペース研究チーム チームディレクター、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) 主任研究者 兼任)らは、効率的かつ迅速なナノグラフェンの水素化の新手法「メカノケミカル芳香環水素化反応」の開発に成功しました
周辺水素化ナノグラフェンは、高い溶解性や負の電子親和力など、有機電子材料として好ましい性質を示すことが期待される分子群とされています。これらの分子群の合成には芳香環を水素化する必要がありますが、一般的に10気圧~100気圧程度の高圧水素下で高温・長時間を要します。さらに、出発原料であるナノグラフェン分子の有機溶媒に対する溶解度が低いことが課題となっており、合成難易度を高めてきました。
本研究では、ロジウム触媒存在下、水素供給源としてジボロン酸/n-ブタノールを用い、常圧下、空気中での芳香環のメカノケミカル水素化反応の開発に成功しました。本反応は加圧水素を高温高圧下で用いる従来の溶液反応と比較して大幅な反応条件の緩和と反応時間の短縮が可能であり、さまざまな周辺水素化ナノグラフェンの迅速合成が可能となりました。さらに、得られた周辺水素化ナノグラフェン分子は固体凝集状態で強まる発光特性などのユニークな性質を有していることが分かりました。
本研究は新しい芳香環の水素化法となることが予想され、また従来法に比べて、コスト・反応時間・安全性などの点で圧倒的に優れた手法といえます。
本研究成果は、2025年4月17日に英国王立化学会誌「Chemical Science」のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・従来困難であった、低溶解性ナノグラフェンの水素化を実現。
・固体試薬をそのままボールミル装置で混合撹拌するメカノケミカル反応を開発。
・発火の危険性がある水素ガスを用いない、効率的かつ迅速なナノグラフェン水素化法。
・有機溶媒をほとんど必要とせず、水素源として安価なn-ブタノールが利用可能。
・凝集状態での発光特性をもつ水素化ナノグラフェンを発見。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【論文情報】

雑誌名:Chemical Science.
論文タイトル:Rh-catalyzed mechanochemical transfer hydrogenation for the synthesis of periphery-hydrogenated polycyclic aromatic compounds(ロジウム触媒による水素移動型メカノケミカル水素化による周辺水素化ナノグラフェンの合成と性質)
著者:Yoshifumi Toyama, Takumu Nakamura, Yushin Horikawa, Yuta Morinaka, Yohei Ono, Akiko Yagi, Kenichiro Itami, Hideto Ito (遠山 祥史・中村 拓夢・堀川 友心・森中 裕太・小野 洋平・八木 亜樹子・伊丹 健一郎・伊藤 英人)
DOI:10.1039/d5sc01489a

 

※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 伊藤 英人 准教授
https://synth.chem.nagoya-u.ac.jp/wordpress/staff/itohideto