明治薬科大学の木村真也 講師、山中正道 教授、名古屋大学の内橋貴之 教授(生命創成探究センターとの兼務)、静岡大学の河合信之輔 准教授、千葉大学の矢貝史樹 教授を中心とする研究チームは、帝京科学大学、コンフレックス株式会社、分子科学研究所との共同研究により、医療や環境分野での活用が期待される次世代機能性材料である『超分子ゲル注1) 』がどのように作られるのか、その過程をナノメートル(10億分の1メートル)のスケールで「動画」として捉えることに世界で初めて成功し、超分子ゲルの形成メカニズムを解明しました。
超分子ゲルは薬を適切な患部へ届ける「薬物送達システム」や人工組織材料、汚染物質を取り除く環境材料など、様々な分野で活躍が期待されています。研究チームは、「高速原子間力顕微鏡」という特殊な顕微鏡を使って、非常に細い繊維(超分子ファイバー)がどのように成長してゲルになるのかを「動画」として捉えることに成功しました。さらに、ゲルが形成されていく全体の過程についても、ビデオカメラ撮影とコンピュータによる画像解析を行い、ファイバーの形成から成長に至るメカニズムの全体像を明らかにし、超分子ファイバーの成長を説明できる新しい理論を提案しました。今回の成果は、超分子ゲルの性質をより自由に制御できる道を開き、将来的には医療・環境分野をはじめとしたさまざまな分野での応用に大きく貢献することが期待されます。
本成果は、Nature Communications(電子版)にて2025年4月22日(火)に公開されました。
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注1) 超分子ゲル:ゲルは、分子によって作られた網目構造の中に、液体が取り込まれることで形成されます。従来からよく知られたゲルは、多くが非常に大きな分子(高分子)から構成されており、例えば、寒天などの食品、紙おむつの吸水材などが挙げられます。一方、「超分子ゲル」は小さな分子(低分子)が、水素結合のような弱いつながり(非共有結合)で集まり、あたかも高分子のように振る舞うことで形成されるゲルです。このゆるやかな結びつきのおかげで、外からの刺激(温度変化、光、酵素など)に敏感に反応できる特徴が生じます。この特性を活かして、たとえば薬を必要な場所に届ける材料や、傷んだ組織を修復する材料、さらには汚染物質を吸着する環境素材などへの応用が期待されています。
論文タイトル: Molecular-level insights into the supramolecular gelation mechanism of urea derivative
著者: 木村真也1*、安達紅彩1、石井義記2、小宮山友希1,3、齋藤卓穂4、中山尚史5、横屋正志1、高谷光6,7、矢貝史樹8,9*、河合信之輔3*、内橋貴之2,10*、山中正道1†
1 明治薬科大学、2名古屋大学、3静岡大学、4千葉大学大学院融合理工学府先進理化学専攻、5コンフレックス株式会社、6帝京科学大学、7自然科学研究機構 分子科学研究所、8千葉大学大学院工学研究院、9千葉大学国際高等研究基幹、10自然科学研究機構 生命創成探究センター(*責任著者)
† 残念ながら、本論文の準備中に、本研究を主導された山中正道教授が50歳という若さでご逝去されました。本論文を追悼の意を込めて捧げます。本論文は山中教授の学術的遺産が永遠に続くことを示す証です。
掲載誌: Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-025-59032-6