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医歯薬学

2025.05.08

固形癌に対する新たな CAR-T 細胞を開発! 〜Eva1 を標的とする CAR-T 細胞療法が肺癌・膵癌マウスモデルで有効性を示す〜

名古屋大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学の尾﨑正英 大学院生(現 大阪大学大学院医学系研究科 感染制御学 特任助教)と、平野志帆 大学院生、寺倉精太郎講師、清井仁 教授らの研究グループは、名古屋大学大学院医学系研究科 腫瘍外科学の砂川真輝 特任助教、國料俊男 病院准教授、江畑智希 教授、および株式会社CURED との共同研究として Eva1(MPZL2)*2 という固形癌に広く発現する抗原を標的としたキメラ抗原受容体 T 細胞(CAR-T 細胞)の開発に成功しました。

 

白血病や悪性リンパ腫などの血液悪性腫瘍に対する CD19 や BCMA 標的の CAR-T 細胞はすでに臨床応用されていますが、固形癌に対しては CAR-T 細胞療法*1 は実用化には至っていません。本研究では、Eva1 が肺癌、膵癌など複数の固形癌で強く発現していることに着目し、ヒト化抗 Eva1 抗体をもとに CAR 構造を設計・最適化しました。短いスペーサー領域*4 と、4-1BB あるいは CD79A/CD40 を細胞内ドメイン*3 に用いた構造が、がん細胞に対する優れた効果を示しました。

 

さらに、正常単球に Eva1 が弱く発現している点も評価し、安全性の観点から抗原密度に基づく CAR-T 細胞の反応閾値を定量的に解析しました。その結果、正常細胞に対する過剰な反応を抑制しつつ、腫瘍に対しては有効な反応を示す可能性が明らかとなりました。

 

この Eva1CAR-T 細胞は、固形癌に対する新たな免疫療法としての臨床応用が期待されます。

 

本研究成果は、国際科学雑誌「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」に2025 年 5 月 8 日にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

● 固形癌を標的とする CAR-T 細胞療法*1 の開発に成功。
● CAR-T 細胞構造の最適化(スペーサー長や細胞内ドメイン)により、in vitro・in vivo での治療効果を改善。
● Eva1(MPZL2)を標的とするヒト化 CAR-T 細胞(Eva1CAR-T)は、肺癌および膵癌マウスモデルで高い抗腫瘍効果を発揮。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(*1)CAR-T 細胞療法:T 細胞に特定の腫瘍抗原を認識するキメラ抗原受容体を導入し、がん細胞を攻撃させる免疫療法。
(*2)Eva1 (MPZL2):さまざまながん細胞で発現する小型の膜タンパク質。本研究では新規の CAR-T 標的抗原。
(*3)細胞内ドメイン:CAR-T 細胞ががん細胞に結合した後、細胞内で活性化の信号を伝える部位。CD28 や 4-1BB が代表的である。本研究で用いている CD79A/CD40 は当研究室で開発したオリジナルの細胞内ドメイン。
(*4)スペーサー領域:CAR の構造中、抗原認識部位と細胞内ドメインをつなぐ部位。細胞膜との距離を決定する部分で、シグナル伝達効率に影響。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal for ImmunoTherapy of Cancer
論文タイトル:Development and optimization of Eva1 (MPZL2) targeting chimeric antigen receptor T cells
著 者 : Masahide Osaki1 , Seitaro Terakura 1 *, Shiho Hirano 1 , Takuma Iwasa 2 , Kanako C. Hatanaka3 , Yutaka Hatanaka3 , Masaki Sunagawa 4 , Toshio Kokuryo 4 , Yoshitaka Adachi1 , Yuki Takeuchi 1 , Ryo Hanajiri1 , Chie Sakanaka2 , Makoto Murata1 , Tomoki Ebata 4 , and Hitoshi Kiyoi 1
1 Department of Hematology and Oncology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 CURED Inc., Kumamoto, Japan
3 Center for Development of Advanced Diagnostics, Hokkaido University Hospital, Sapporo, Japan
4 Division of Surgical Oncology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan

 

DOI: 10.1136/jitc-2024-009825

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_250508en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 寺倉 精太郎 講師
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/hematology/