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数物系科学

2025.05.29

地震後の超高層大気変動を3次元解析で高精度に可視化 電波障害予測や宇宙天気予報の実現にも期待

名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)のWeizheng Fu(ウェイチェン フー)日本学術振興会外国人特別研究員、大塚 雄一 准教授らの研究グループは、オスロ大学理学研究科、京都大学生存圏研究所、情報通信研究機構との共同研究で、日本国内に整備された超稠密なGNSS観測網を活用することで、令和6年能登半島地震発生直後の電離圏応答を高精度に解析し、時間的・空間的に展開する電離圏電子密度変動の3次元的な特徴を明らかにしました
本研究では、本研究グループが開発した三次元電離圏トモグラフィー手法を用いて、従来の2次元観測では見えなかった地震後の電離圏電子密度変動の立体構造や成長過程を明らかにしました。地震発生の約10分後から震央を中心として同心円状に広がる電子密度変動が水平方向および鉛直方向に広がる様子を明瞭に捉えました。特に、震央の南側では、高い高度ほど電子密度の変動が早く伝搬し、電子密度変動の波面の方向が時間とともに鉛直に近づく様子が捉えられました。モデル計算の結果、これらの変動は地震によって生じた音波によるものであり、高度が高くなるほど音速が大きくなるのが原因であることを確認しました。また、理論と観測の違いからは、電離圏内での音波の非線形な伝播や、断層沿いに複数の音波源が存在する可能性が示唆されます。本成果は、地球と宇宙環境のつながりに関する理解を深め、将来的にはGPSを使った測位の精度向上や、人類の生存環境に関わる宇宙環境予測への貢献が期待されます。
本研究成果は、2025年5月29日(日本時間)付の国際誌『Earth, Planets and Space』に掲載されます。

 

【ポイント】

・国内超稠密GNSS注1)受信機網から得られた全電子数(TEC)注2)データに対して、電離圏電子密度の空間構造を推定する3次元電離圏トモグラフィー注3)を適用した。
・その結果、令和6年能登半島地震後に観測された電離圏電子密度変動の3次元構造の時間発展を初めて捉えることに成功し、震央注4)を中心として電子密度変動の波面が時間の経過とともに鉛直に近くなる傾向が捉えられた。
・震央から上方伝搬する音波のモデル計算結果の比較から、電子密度変動の波面の変化は、地震で発生した音波の伝搬によって説明できる。
・理論予測とトモグラフィー結果の差異は、電離圏における音波の非線形伝播や、断層に沿って複数の音波源が存在する可能性を示唆する。
・本成果は、地球と宇宙環境のつながりに関する理解を深め、将来的にはGPSを使った測位の精度向上や、人類の生存環境に関わる宇宙環境予測に貢献すると期待される。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)GNSS:
アメリカのGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、ロシアのGLONASS、中国のBeiDou、欧州連合のGalileo等の測位衛星システムの総称。
注2)全電子数(TEC):
GNSS人工衛星で送信された電波が地上のGNSS受信機で受信されるまでに通過した経路上に存在する電子の総数。電離圏には多くの電子が存在し、これらの電子がGPSなどの衛星信号に影響を与える。TECを測定することで、電離圏の状態やその変化を知ることができる。単位は「TECU(1 TEC Unit = 10??個/m?)」で表される。
注3)3次元電離圏トモグラフィー:
複数のGNSS受信機から得られるTECデータを使って、電離圏の電子密度分布を3次元的に再構成する手法。まるで医療用のCTスキャンのように、電離圏の内部構造を可視化することができるため、電離圏擾乱の解明に役立つ。
注4)震央:
地震が発生した地下の震源の真上にあたる地上の点。

 

【論文情報】

雑誌名:Earth, Planets and Space
論文タイトル:Unveiling the Vertical Ionospheric Responses Following the 2024 Noto Peninsula Earthquake with an Ultra-Dense GNSS Network
著者:Weizheng Fu(名古屋大学宇宙地球環境研究所), 大塚雄一(名古屋大学宇宙地球環境研究所), Nicholas Ssessanga(オスロ大学理学研究科), 新堀淳樹(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、惣宇利卓弥(京都大学生存圏研究所)、西岡未知(情報通信研究機構)、Perwitasari Septi(情報通信研究機構)        
DOI: https://doi.org/10.1186/s40623-025-02211-y

 

【研究代表者】

宇宙地球環境研究所 Weizheng FU(ウェイチェン フー) 日本学術振興会外国人特別研究員
https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/dimr/