名古屋大学大学院生命農学研究科の髙木 隆 博士後期課程学生と梶村 恒 教授の研究グループは、倒木や枯れ木の木材を食べて育つクビナガキバチ科昆虫の生態的特徴について調べ、これまでに知られていなかった新奇な形質を持つことを発見しました。
キバチ類(ハチ目:キバチ科・クビナガキバチ科)は原始的な蜂の仲間で、名前のとおり“木材を食べるハチ”です。これらのハチは菌類と共生することで、幼虫が木材を消化できていると考えられています。雌成虫は「マイカンギア」と呼ばれる特殊な器官に菌の胞子を蓄え、針状の産卵管を使って木に卵・胞子・スライム状の粘液を注入します。従来の研究は林業害虫が含まれるキバチ科に集中してきた一方で、枯れ木を利用するクビナガキバチ科の生態は着目されず、両科の知見には大きなギャップがありました。
本研究はクビナガキバチ科の生態的特徴について調べ、従来のキバチ科では見られなかった「しっぽの付いた卵」や「雌に偏る性比」、「スリット状のマイカンギア」、「鮮やかな赤色の粘液」などのさまざまな形質を発見しました。これらの結果はキバチ科・クビナガキバチ科の持つ生態的機能や進化的背景の違いを示唆しており、キバチ類全体の生態解明、それに基づく害虫管理にも資する新たな知見を提供しています。
本研究成果は、スイス科学雑誌「Forests」に2025年2月1日付でオンライン掲載されました。
・キバチ類(キバチ科・クビナガキバチ科)は“カビと共生”する「木材を食べるハチ」である。
・菌を持ち運ぶための器官「マイカンギア」注1)やスライム状の粘液注2)を体内に持つとされているが、害虫種を含むキバチ科と比べて、クビナガキバチ科の生態は未解明だった。
・本研究は、クビナガキバチ科が「しっぽの付いた卵」や「スリット状のマイカンギア」、「ワインレッドの粘液」など、キバチ科とは全く異なる形質を持つことを発見した。
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注1)マイカンギア(単数形:マイカンギウム):
Mycangia(Mycangium)。昆虫が菌類を保持・運搬する器官を指す用語。内部には共生菌の菌糸や胞子が貯蔵されている。キバチ類のマイカンギアは産卵管(針)と連結しており、卵と同時に菌糸や胞子が針を通って樹木内に注入される。
注2)粘液:
英語名のMucusからミューカス、あるいは一部の種のものは樹木に毒性を示すことからVenom(毒液)とも呼ばれる。スライム上で粘性のある分泌液。袋状の貯蔵器官はマイカンギアと同様に産卵管と連結しており、卵、菌と同時に樹木内に注入される。
雑誌名:Forests
論文タイトル:Ecological Traits of Three Species of Xiphydria Woodwasps from Japan: Host Tree Species and Eggs, Symbiotic Fungi, and Mucus in Their Bodies
著者:Ryu Takagi (髙木 隆:名古屋大学大学院生命農学研究科 博士後期課程学生), Hisashi Kajimura (梶村 恒:名古屋大学大学院生命農学研究科 教授)
DOI: 10.3390/f16020264
URL:https://www.mdpi.com/1999-4907/16/2/264
大学院生命農学研究科 梶村 恒 教授, 主著者 髙木 隆(博士後期課程学生)