TOP   >   化学   >   記事詳細

化学

2025.06.12

分子内のすばやい動きで高いエネルギー光へ変換: 量子センシングの医療応用にも期待

神戸大学大学院理学研究科の東晃輔 大学院生(研究当時、現:東レリサーチセンター勤務)、分子フォトサイエンス研究センターの岡本翔 助手(研究当時、現:筑波大学助教)および小堀康博 教授、長崎大学大学院総合生産科学研究科(工学系)の作田絵里 教授、新潟大学大学院自然科学研究科の生駒忠昭 教授、名古屋大学大学院情報学研究科の東雅大 教授らの研究グループは、ドイツのザーランド大学との共同研究により、人体に無害な長波長光を高いエネルギーをもつ短波長光に変換するアップコンバージョン過程の中間体が、分子内部の励起子ホッピング運動を1兆分の1秒の単位で繰り返し起こす現象を明らかにしました。このホッピング速度は溶媒の粘性を変えるだけで大きく変化させることが可能で、それにより光の波長変換の効率を制御できることを示しました。
今後は、分子振動を巧みに利用する光エネルギー変換デバイス開発が進展し、人体に害のない近赤外光を利用する光線力学的ながん治療や、その細胞内部のミクロな流体環境センシングへの応用など幅広い分野への展開が期待されます。
この研究成果は、2025年5月19日に、独国科学雑誌「Angewante Chemie International Edition」に掲載されました。

 

【ポイント】

・持続可能社会の実現に向け、これまで利用されてこなかったエネルギー源を有効活用することが重要。光アップコンバージョンと呼ばれる長波長光を短波長光に変換する現象を活用し、超高効率光エネルギー変換システムの実現が期待される。
・光アップコンバージョンの光エネルギー変換効率は改良されてきているが、この反応のメカニズムが十分に理解されておらず、材料開発のボトルネックとなっていた。
・今回、アントラセン三つをホウ素で架橋させた分子内において生成する三重項励起子によるアップコンバージョン発光と電子スピンのホッピング運動の両者を観測した。この中間体が分子内部において回転しながらホッピングする時間が溶媒によって大きく変化し、それにより光の波長変換効率を制御できることが明らかとなり分子周囲のミクロな領域で流動性をセンシングするのに適していることが分かった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

 

【論文情報】

・タイトル
“Vibronic Trimer Design Enhancing Intramolecular Triplet-Exciton Hopping to Accelerate Triplet-Triplet Annihilation for Photon Upconversion”
DOI:10.1002/anie.202503846

URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202503846?msockid=1eda0727e93d63c81698126de88a6211
・著者
Kousuke Higashi, Tsubasa Okamoto, Nanami Iwaya, Eri Sakuda, Christopher W. Kay, Tadaaki Ikoma, Masahiro Higashi and Yasuhiro Kobori
・掲載誌
Angewante Chemie International Edition

 

【研究代表者】

大学院情報学研究科 東 雅大 教授

https://sites.google.com/view/higashi-group/home