空気や水など流体の速度場(速度分布)の計測は、現象の理解やその制御のために重要です。特に流体の中でリアルタイムに何が生じているかを把握し、制御することが期待されています。流体の流速の計測によく用いられる方法として、流速の面情報が得られる粒子画像流速計測法(PIV)注3)がありますが、画像解析技術を基にした計測のため、高速な空気の流れでは解析に時間がかかり、リアルタイムな計測と制御ができませんでした。
名古屋大学大学院工学研究科の野々村 拓 教授らの研究グループは、この課題を解決するため、2023年に「低次元モデル」注4)と「センサー位置最適化技術」注5)を組み合わせた疎点解析粒子画像流速計測法(スパースプロセッシングPIV)を実証しました。
本研究ではこのシステムに、電気的な入力で遅れなく反応して誘起流れを生成するプラズマアクチュエータを組み合わせ、機械学習によるモデル化と先端の制御アルゴリズムを利用することで、2000Hzでのリアルタイム流体制御を実現しました。
本研究で利用したスパースプロセッシングPIVには汎用性があります。低次元モデルと最適化を組み合わせることで、画像解析などを伴う時間がかかる計測手法に対し解析データの量を減らして処理時間を短縮できることから、流体力学に留まらずさまざまな分野でのリアルタイム計測とそれに基づく制御が可能になると期待されます。
本研究成果は、2025年6月16日付国際学術論文誌『Experiments in Fluids』に掲載されました。
・これまで不可能だった、高速流体のリアルタイムな計測と制御に成功。
・感度の高い観測点の最適な組み合わせを選択して計測する手法「疎点解析粒子画像流速計測法(スパースプロセッシングPIV)」注1)とプラズマアクチュエータ注2)を利用したシステムを構築。
・2000ヘルツ(Hz)で高速な空気の流れをリアルタイム画像計測して行った流体制御の成功は世界初。
・本技術を利用して、流体力学に限らずさまざまな分野でのリアルタイム観測とフィードバック制御への応用に期待。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)疎点解析粒子画像流速計測法(スパースプロセッシングPIV):
本技術は、データによく現れるパターンを抽出する固有直交分解(POD)モードの低次元モデルで速度場を表現し、センサー位置最適化技術を利用して選んだ低次元モデルに対して感度の高い点を解析し全体場の推定を行う。このように限られた点のみの解析とすることで、計算時間などがボトルネックとなってリアルタイム計測ができなかった粒子画像流速計測法PIVのリアルタイム化を実現している(図1)。この際に、研究グループが持つ感度の良い点を探すセンサー位置最適化技術のうち、一つのセンサー点で複数の情報が得られるベクトル型センサーのためのセンサー位置最適化技術を利用している。従来のPIVでは画像解析にかかる時間から100Hz程度まででのリアルタイム流れ場計測が限度だったが、本研究で提案するスパースプロセッシングPIVでは2000Hzでのリアルタイム計測が可能となり、高速な空気の流れなどにも適用できる。
注2)プラズマアクチュエータ:
イオン風を利用して流体機器周りの流れを制御する装置。通常は2枚の電極と誘電体で構成され、交流の高電圧を印加することによって空気をイオン化し、イオン風を発生させる。プラズマアクチュエータは航空機の翼周りの流れのはく離制御や摩擦抵抗の低減などへの応用が期待されている。
注3)粒子画像流速計測法(PIV):
流体中に含まれる粒子を撮像した粒子画像により、非接触で2次元平面内の速度および方向を求める流体計測手法。一般的に画像相関解析を用いて粒子群の移動量を求めるため、解析に時間がかかる。
注4)低次元モデル:
本来複雑な現象をその大まかな特徴に限定して表現するように簡略化したモデル。大勢に影響の小さい詳細な情報を切り捨てる代わりに、計算コストを下げることができる。
注5)センサー位置最適化技術:
モデルに対して、感度の高い観測点の組み合わせを選択する方法。厳密には組み合わせ問題となり、計算量爆発を起こすため、問題を緩和して実用的な観測点の組み合わせを探す。
雑誌名:Experiments in Fluids
論文タイトル:Real-time feedback control of flow velocity field using sparse processing particle image velocimetry and plasma actuators
著者:Taku Nonomura, Chihaya Abe, Ryo Naramura, Yasuo Sasaki
DOI:10.1007/s00348-025-04039-4
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00348-025-04039-4