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生物学

2025.06.17

疾患に関連する糖鎖「ポリシアル酸」の高精度測定法を開発 統合失調症など精神疾患の診断・治療への応用に期待

名古屋大学糖鎖生命コア研究所および大学院生命農学研究科の羽根 正弥 助教、佐藤 ちひろ 教授らの研究グループは、主に脳内の記憶や情動などに関わる領域に存在し、その不全が精神疾患やがんなどの疾患に関連する可能性があるユニークな糖鎖、ポリシアル酸の高精度かつ高感度な測定法を開発しました。名古屋大学糖鎖生命コア研究所および大学院生命農学研究科の羽根 正弥 助教、佐藤 ちひろ 教授らの研究グループは、主に脳内の記憶や情動などに関わる領域に存在し、その不全が精神疾患やがんなどの疾患に関連する可能性があるユニークな糖鎖、ポリシアル酸の高精度かつ高感度な測定法を開発しました。開発した方法を用いて、胎児期から各発達段階および老齢期までのマウスの脳内および血中ポリシアル酸の正確な定量を行ったところ、脳の領域特異的にポリシアル酸がダイナミックに変動していること、血中においても脳内同様に老化により変動していることを明らかにしました。また、統合失調症様の症状を示すモデルマウスを用いて血中ポリシアル酸量を測定したところ、野生型マウスよりもその量が増加していました。また、統合失調症患者および慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)患者の血液について、統合失調症患者では健常者よりもポリシアル酸量が増加する一方、CIDP患者では健常者と変わらないことが明らかになり、ポリシアル酸の血中濃度は疾患特異的に変化することが示されました。現在、統合失調症などの精神疾患患者数は増加の一途をたどっていますが、その客観的指標に基づく診断は困難な状況です。今後、血中ポリシアル酸が疾患特異的に変動するメカニズムが解明され、診断や治療の助けとなるバイオマーカー注4)として利用されることが大いに期待されます。本研究成果は、2025年5月30日(日本時間)付国際学術雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。

 

【ポイント】

・主に脳に存在し、精神疾患で変動することが知られているユニークな糖鎖注1)、ポリシアル酸注2)の簡便で高精度かつ高感度な測定法を開発。

・マウスの発達、老化において脳領域特異的にポリシアル酸が変動していることを発見。・統合失調症注3)モデルマウスおよび統合失調症患者の血中に存在するポリシアル酸が野生型マウスおよび健常者血中に比べ増加していることを発見。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)糖鎖:

糖鎖は我々の体を形作る全ての細胞を覆い、細胞と外界が接する境界で活躍している。核酸、タンパク質に続く第三の生命鎖と呼ばれ、細胞を構成するタンパク質や脂質に結合し、細胞の接着、分化、免疫、感染など多くの生命現象において重要な役割を果たしている。

注2)ポリシアル酸:

ポリシアル酸はシアル酸という酸性の糖が8個以上直鎖状に連なった酸性糖鎖。神経の新生や移動などに重要な役割を持ち、精神疾患との関わりが示唆されている。

注3)統合失調症:

幻覚や妄想と現実の区別が難しく、異常な思考や行動、うつ症状、認知機能の低下など多岐にわたる症状を示し、社会生活に大きな問題を生じる精神疾患。原因は遺伝要因だけでなくストレスなどの環境要因も複雑に関わることが示唆されているが、詳細は未解明。

注4)バイオマーカー:

生体の状態や変化を示す指標になる分子のことで、健常時との比較で疾患の診断等を可能にする。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports

論文タイトル:A highly sensitive quantitative method of polysialic acid reveals its unique changes in brain aging and neuropsychiatric disorders

著者:(太字は本学関係者)

羽根 正弥   名古屋大学糖鎖生命コア研究所・大学院生命農学研究科研究科 助教

奈良村 文音  名古屋大学大学院生命農学研究科研究科 博士前期課程

早川 開都     名古屋大学大学院生命農学研究科研究科 博士後期課程

阿部 智佳羅  名古屋大学糖鎖生命コア研究所 博士研究員

中川 貴博     名古屋大学大学院生命農学研究科研究科 博士後期課程

久島 周        名古屋大学医学部附属病院 ゲノム医療センター 病院講師

古川 宗磨     名古屋大学大学院医学系研究科 客員研究者

深見 祐樹     名古屋大学大学院医学系研究科 特任助教

池上 啓介     九州大学大学院農学研究院 准教授

西郷 和真     近畿大学病院・近畿大学大学院医学研究科 臨床教授

楠 進           近畿大学医学部 客員教授

勝野 雅央     名古屋大学大学院医学系研究科 教授

尾崎 紀夫     名古屋大学大学院医学系研究科・糖鎖生命コア研究所 特任教授

北島 健        名古屋大学糖鎖生命コア研究所 特任教授

佐藤 ちひろ  名古屋大学糖鎖生命コア研究所・大学院生命農学研究科研究科 教授       

DOI: 10.1038/s41598-025-02583-x

URL: https://www.nature.com/articles/s41598-025-02583-x

 

【研究代表者】

糖鎖生命コア研究所/大学院生命農学研究科 佐藤 ちひろ 教授, 羽根 正弥 助教

https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~gls/

 

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