・神経芽腫の自然退縮に関与する可能性のある未分化な細胞状態「uncommitted細胞」をマウスで同定
・自然退縮に至ったと推定されるマウスでは、この細胞が高頻度で存在
・ヒト神経芽腫患者データにおいて、uncommitted細胞の遺伝子群の高発現が予後良好例と関連
名古屋大学大学院医学系研究科 分子生物学の坪田庄真 助教と門松健治 教授(現・糖鎖生命コア研究所 所長)らの研究グループは、オーストラリアのChildren’s Cancer Instituteとの共同研究により、小児がんの一種である神経芽腫において、がん化の初期段階で自然退縮に関与する可能性のある未分化な細胞状態(uncommitted細胞)を世界で初めて同定しました。
神経芽腫は、乳幼児に発症する神経系の小児がんで、進行性・転移性で治療が難しいタイプと、治療を行わなくても自然に腫瘍が消失(自然退縮)するタイプの両方が存在します。本研究では、神経芽腫の原因遺伝子として知られるMYCN遺伝子を発現させたマウス(Th-MYCNマウス)を用いて、腫瘍が肉眼的に形成される前段階に着目し、単一細胞RNAシーケンスを実施しました。
その結果、神経系への分化の特徴を持つ未分化な細胞状態(uncommitted細胞)が同定され、この細胞が多く存在する個体では腫瘍が形成されず、自然退縮が生じた可能性が示されました。さらに、ヒト神経芽腫患者の大規模データを解析したところ、このuncommitted細胞に特有の遺伝子群は、予後良好な患者群(ステージ1–3、MYCN非増幅)において高く発現していることが明らかとなり、臨床的な意義も裏付けられました。
本研究は、小児がんに特有な自然退縮という現象の分子基盤に迫るものであり、早期診断や予後予測、さらには新たな治療標的の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2025年6月24日12時(日本時間6月25日1時)に、米国神経腫瘍学会の公式学術誌『Neuro-Oncology』に掲載されました。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
◆詳細(プレスリリース英文)はこちら
雑誌名: Neuro-Oncology
論文タイトル: Trajectory analysis reveals an uncommitted neuroblastic state in MYCN-driven neuroblastoma development
著者: Shoma Tsubota, Daniel R. Carter, Janith A. Seneviratne, Haruka Hirose, Teppei Shimamura, Yukie Kashima, Yutaka Suzuki, Koji Tsuda, Glenn M. Marshall, and Kenji Kadomatsu
DOI: 10.1093/neuonc/noaf129