・キヌアの幼植物は、海水レベルの高塩濃度下でも阻害を受けることなく生育できる、強い塩耐性をもつ。
・海水レベルの高塩濃度下でキヌアを栽培した時の地上部へのナトリウムの取り込みは、その系統の栽培地域によって異なる傾向がみられ、ウユニ塩湖周辺の南部高地系統は地上部に塩をため込みにくい。
・3つのナトリウム輸送体が塩耐性作物キヌアの塩排出に実際に機能していることを示した。
国際農研は、名古屋大学、理化学研究所、京都大学と共同で、長年謎とされていた、高い耐塩性をもつスーパー作物「キヌア」の塩排出機構の一端を明らかにしました。
キヌアは優れた栄養バランスをもつ一方、過酷な環境でも栽培できることから、気候変動による劣悪な環境において貴重な食料源となることが期待されます。国際連合食糧農業機関(FAO)は、2013年を「国際キヌア年」に定め、キヌアが世界の食料・栄養問題の解決に貢献し得る重要な作物であることを広く発信してきました。さらに、南米アンデス原産のキヌアは、栄養バランスに優れているため、米国航空宇宙局(NASA)が宇宙飛行士の食料として注目してきたほか、近年はスーパーフードとして世界的な人気が高まっています。
これまでに、私たちは、キヌアがなぜ過酷な環境でも生育できるのか、その耐塩性メカニズムの解明を目指して研究を進めてきました。本研究では、キヌアの幼植物が、多くのほかの植物が枯死してしまう海水レベルの濃度(600 mM)の塩化ナトリウム(NaCl)存在下においても、阻害を受けることなく生育できることを示しました。また、地上部への塩の取り込みが、その系統の栽培地域によって異なる傾向があることを示しました。南米ボリビアのウユニ塩湖周辺の高濃度塩分土壌地域で栽培されている南部高地系統は、そのほかの地域で栽培されている系統に比べて地上部への塩の取り込みが少ないことが明らかになり、地上部に塩を取り込みにくい仕組みを獲得してきた可能性が示唆されました。さらに、本研究では、3つのナトリウム輸送体が実際にキヌアの塩の排出に機能していることを示しました。本研究の成果により、キヌアのもつ優れた耐塩性メカニズムを活用して、塩害に負けない作物を創出する道が拓かれました。今後、本成果は、世界の食料安全保障や栄養改善、SDGs目標2「飢餓をゼロに」の達成に貢献することが期待されます。
本研究成果は、国際科学専門誌「Frontiers in Plant Science」オンライン版(日本時間2025年6月18日)にオープンアクセスで掲載されました。
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<論文著者> Yasufumi Kobayashi(小林 安文), Ryohei Sugita(杉田 亮平, 名古屋大学 アイソトープ総合センター), Miki Fujita(藤田 美紀, 理化学研究所 環境資源科学研究センター), Yasuo Yasui(安井 康夫, 京都大学大学院農学研究科), Yoshinori Murata(村田 善則), Takuya Ogata(小賀田 拓也), Yukari Nagatoshi(永利 友佳理), Yasunari Fujita(藤田 泰成).
<論文タイトル> CqHKT1 and CqSOS1 mediate genotype-dependent Na+ exclusion under high salinity conditions in quinoa
<雑誌> Frontiers in Plant Science
DOI : https://doi.org/10.3389/fpls.2025.1597647
URL:https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2025.1597647/full