・量子ドット注1)は、強く安定な発光を示すナノ発光プローブとして2023年にノーベル化学賞を受賞して注目されたが、ディスプレイや太陽電池などと比較して、生体イメージング用途の開発は遅れていた。
・硫化銀ゲルマニウム半導体(Ag8GeS6)は、天然鉱物(アルジロダイト)としても存在する安定な材料であり、近赤外波長領域の光をよく吸収し、太陽電池材料として注目されている。しかし、これまで室温での発光は全く報告されておらず、発光特性は未開拓な材料である。
・本研究ではAg2Sにゲルマニウム(Ge)を添加してナノサイズ化することで、これまで世界中で誰も実現できていなかった、近赤外領域で強く安定に発光するAg8GeS6多元素量子ドットの開発に世界で初めて成功した。
・Ag8GeS6量子ドットを水溶性化することで、生体イメージング用発光プローブに応用できた。マウスに注射して発光イメージングを行うと、生体内深部の明瞭なイメージング画像が取得できた。
・Ag8GeS6量子ドットは、生体・細胞への毒性が極めて低く、既存の量子ドットに比べて環境・生体への負荷が格段に低いことが特徴であり、今後の産業・臨床応用に向けた「グリーン・ナノマテリアル」として幅広い分野で応用が期待される。
名古屋大学大学院工学研究科/名古屋大学未来社会創造機構の鳥本 司 教授、亀山 達矢 准教授(現:信州大学繊維学部化学・材料学科 准教授)、秋吉 一孝 助教らの研究グループは、量子科学技術研究開発機構(QST) 量子生命科学研究所/名古屋大学 未来社会創造機構の馬場 嘉信 所長/特任教授、湯川 博 プロジェクトディレクター(PD)/特任教授との共同研究で、近赤外光波長領域で強く発光する新規な多元素量子ドットの開発に世界で初めて成功し、生体深部イメージング用発光プローブとして利用できることを実証しました。
本研究成果であるAg8GeS6多元素量子ドットは、直径約4 nmと非常に小さいAg8GeS6半導体ナノ結晶からなり、低毒性元素のみで構成されています。そのため、バイオイメージングに加え、環境負荷を著しく低減したLED、近赤外光センサー、太陽電池など広範囲な産業応用・展開も期待されます。今後の新規光機能デバイス開発を飛躍的に促進させるマテリアルとして注目されます。
本研究成果は、2025年5月7日に科学誌「Small」にオンライン早期掲載されました。
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注1)半導体ナノ粒子(量子ドット):
量子サイズ効果を示す半導体ナノ粒子のこと。10 nm以下の半導体粒子では、粒子中の電子および正孔がナノ子空間に強く閉じ込められるためにエネルギーが増加するという量子サイズ効果が発現し、バンドギャップなどの物理化学特性が粒子サイズに依存して変化する。これらの半導体ナノ粒子は強く発光するために、LEDやディスプレイなどの発光デバイスへの応用が試みられている。また粒子サイズによって電子エネルギー構造が変化するために、次世代太陽電池の光吸収層としての開発が進められている。現在は、CdS、CdSe、PbSなどの二元素量子ドットを用いる研究が盛んであるが、高毒性元素を含むために、広範囲な応用が望めない。これに対して、毒性元素を含まない三元素以上からなる多元素量子ドットの開発が進められており、サイズの単分散化と組成の均質化によって特性の高性能化が達成できれば、非常に広範囲なデバイス応用が期待されている。
雑誌名: Small, 2411142 (2025)
論文タイトル:Enhancing Near-Infrared Photoluminescence of Ag8GeS6 Quantum Dots Through Compositional Fine-Tuning and ZnS Coating for In Vivo Bioimaging
著者:Nurmanita Rismaningsih, Junya Kubo, Masayuki Soto, Kazutaka Akiyoshi, Tatsuya Kameyama, Takahisa Yamamoto, Hiroshi Yukawa*, Yoshinobu Baba, and Tsukasa Torimoto*
DOI: 10.1002/smll.202411142
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smll.202411142
* : 責任著者
大学院工学研究科/未来社会創造機構 鳥本 司 教授, 湯川 博 特任教授
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/physchem3/index.html