・細菌の細胞分裂では、主要タンパク質であるFtsZと、それを助けるZapAが連携することが知られていましたが、両者がどのように結合して働くのか、その具体的な仕組みは不明でした。本研究はこの連携メカニズムを原子レベルで解明したものです。
・タンパク質の静的な立体構造を捉えるクライオ電子顕微鏡と、その動的な振る舞いを観察する高速原子間力顕微鏡。この2つの顕微鏡を組み合わせることで、FtsZとZapAが連携する仕組みを明らかにしました。
・増殖の仕組みを原子レベルで解き明かしたことで、その働きだけをピンポイントで阻害する新しい抗菌薬の精密な設計に道を拓きます。さらに、生命の巧みな仕組みを応用し、生体膜を自在に操るマイクロマシンの開発にも繋がります。
立命館大学生命科学部の松村浩由教授、上原了助教、名古屋大学大学院理学研究科/自然科学研究機構生命創成探究センターの内橋貴之教授、大阪大学大学院生命機能研究科の難波啓一特任教授(常勤)、藤田純三特任助教(常勤)(当時)、笠井一希特任研究員の共同研究グループは、タンパク質が密集しながらもダイナミックに動き続けることで進行する、細菌の細胞分裂の巧妙な仕組みを世界で初めて解明しました。本研究では、細菌の細胞分裂において必須となるFtsZというタンパク質と、その働きを助けるZapAが連携する様子を静的な「姿(立体構造)」と動的な「動き」の両面から捉えることに成功しました。この成果は、最先端技術であるクライオ電子顕微鏡(注1)と高速原子間力顕微鏡(注2)を駆使したもので、新しい抗菌薬の精密な設計やマイクロマシン開発に道を拓くものとして期待されます 。
本研究成果は、2025年7月1日(現地時間)に”Nature Communications”のオンライン版で発表されました。
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(注1)クライオ電子顕微鏡
生きた状態に近い分子を急速に凍結させ、その静的な「姿(立体構造)」を原子レベルで観察できる顕微鏡技術。この技術の開発は2017年のノーベル化学賞に繋がりました。本研究では、大阪大学の難波啓一特任教授(常勤)らが開発に長年携わってきた日本電子(JEOL)社製のクライオ電子顕微鏡「CRYO ARM™ 300」が使用され、タンパク質複合体の精密な立体構造の解明に大きく貢献しました。
(注2)高速原子間力顕微鏡
タンパク質などが水中で活発に働く動的な「動き」を、1分子レベルでリアルタイムに捉えることができる日本発の画期的な顕微鏡技術。非常に細い針で分子の表面を優しくなぞることで、その形や動きをナノメートル(10億分の1メートル)の精度で可視化します。金沢大学の安藤敏夫特任教授らのグループによって開発され、生命科学の最前線で広く活用されています。
論文名:Structural basis for the interaction between the bacterial cell division proteins FtsZ and ZapA
著者:藤田 純三#、笠井 一希#、日比野 滉太、神子島 豪太、上村 菜月、飛田 駿吾、加藤 夕貴、上原 了、難波 啓一、内橋 貴之*、松村 浩由*
(#Equally contributed authors, *Corresponding authors)
発表雑誌:Nature Communications(2025)
掲載日:2025年7月1日(火) (現地時間)
DOI:10.1038/s41467-025-60940-w
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-025-60940-w