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化学

2025.08.27

生成AI活用で設計通りの人工タンパク質の構築に成功 ~構造の形成と分解が制御可能、人工分子機械の開発に道~

【研究概要】

・生成AIを使い、複雑な形を持つタンパク質の一部分を、狙った向きや角度で正確につなぐ架橋タンパク質構造の設計に成功。
・合成ポルフィリン注 1)に合わせて設計した人工タンパク質を作り、形や性質を活かした環状の集合体を構築。
・環状集合体は、内包する合成ポルフィリンの性質を反映した「金属イオンに応じた環状構造の形成と分解」、「動的な回転運動」を示した。ナノスケールで機能する分子センサーや人工分子機械への応用が期待される。

 

名古屋大学大学院理学研究科の荘司 長三 教授、稲葉 大晃 博士後期過程学生(研究当時)の研究グループは、細胞生理学研究センター・創薬科学研究科・糖鎖生命コア研究所の大嶋 篤典 教授、理学研究科・自然科学研究機構生命創成探究センター・糖鎖生命コア研究所の内橋 貴之 教授、シンクロトロン光研究センターの小野田 浩宜 助教(研究当時)とともに、生成AIを活用した人工タンパク質設計に合成ポルフィリン分子設計を組み込むことで金属応答性の環状タンパク質集合体の構築に成功しました。
化学修飾や変異導入などを用いて人工的に自己組織化させる人工タンパク質集合体は、医療や環境など幅広い分野における機能性バイオマテリアルへの応用が期待されています。本研究では、設計性の高いポルフィリン骨格に着目し、合成ポルフィリンと結合できる人工タンパク質足場を生成AIを活用して設計することで、設計通りの形状を持つ環状タンパク質集合体の構築に成功しました。
得られた環状タンパク質集合体は、合成ポルフィリンの分子設計段階から組み込まれていた機能である金属応答性を示し、金属イオンの有無で集合構造の形成と分解が制御可能であることが分かりました。さらに、合成ポルフィリンに含まれる回転可能な結合に沿って回転運動する動的挙動も観測されました。この性質は合成分子の運動性をタンパク質集合体レベルにまで反映できる可能性を示しており、生体内の分子機械を模倣した人工タンパク質集合体への応用が期待されます。
本研究は生成AIを活用した人工タンパク質集合体設計に合成分子を組み込む複雑な分子設計を可能とする方法論を提案するものであり、人工タンパク質集合体の機能性バイオマテリアルへの応用を促進する研究成果です。2025年8月23日にWiley(ワイリー)が発行するナノテクノロジー専門誌「Small」に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ポルフィリン:
4つのピロール環を持つ環状の有機化合物。生体内でも利用されるヘムにも含まれる分子骨格である。

 

【論文情報】

雑誌名:Small
論文タイトル:Integration of Generative Protein Design with Synthetic Porphyrin Assembly: Metal Responsive Cyclic Assembly of a Bi-Porphyrin Acquisition Designer Protein
著者:稲葉大晃(名古屋大学)、小野田浩宜(名古屋大学)、内橋貴之(名古屋大学)、大嶋篤典(名古屋大学)、荘司長三(名古屋大学)
DOI:doi.org/10.1002/smll.202505625
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smll.202505625

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 荘司 長三 教授
https://bioinorg.chem.nagoya-u.ac.jp/