工学
2025.08.19
世界初成功!ハロゲンフリーのプラズマプロセスで 次世代半導体材料を原子レベルで微細に加工・制御
・ハロゲンフリープラズマ注1)を用いた原子層エッチング(ALE)注2)を開発した。
・最先端半導体デバイスに用いられ、難エッチング材料である酸化ハフニウム(HfO₂)の異方性原子層エッチング注3)を室温で実現した。
・SDGs(持続可能な開発目標)に向け、次世代半導体デバイスの実用化を支えるプラズマ
エッチング技術注4)の推進が期待される。
名古屋大学低温プラズマ科学研究センターの蕭 世男(シャオ シーナン)特任教授 、堀 勝 特任教授らの研究グループは、台湾の明志科技大学との共同研究で、ハロゲン(フッ素、塩素など)を使用しないプラズマプロセスにより、最先端半導体デバイスにおける強誘電メモリやゲート絶縁膜に用いられている酸化ハフニウム(HfO₂)の異方性原子層エッチングに世界で初めて成功しました。
半導体デバイスの高集積化、高性能化のために、回路パターンの微細化が進められており、それに応じて新しい材料やデバイス構造の開発も進められています。近年、超微細トランジスタにおける最先端ゲート絶縁膜や強誘電体メモリの分野においては、HfO₂の原子層エッチング技術の研究開発が不可欠です。しかし、ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングでは、生成されるハフニウムのハロゲン化物の揮発性が低いことに加え、HfとOの結合エネルギーが高いため、HfO₂は「難エッチング材料」と言われています。ハロゲン系プラズマによるエッチングモデルの観点から、高温によって揮発性を高めること、あるいは高エネルギーのイオンを利用し、物理的な衝撃により反応生成物を除去(スパッタリング)する方法しか取れないと考えられています。
本研究では、独自に開発したリアルタイム表面構造分析装置を利用し、表面のエッチング反応機構を解明しました。この成果により、最先端半導体デバイスの実用化に対し、難エッチング材料であるHfO₂の最先端微細加工技術を実現できました。さらに、ハロゲン系ガスを使わないことで、持続可能性な開発目標の達成に向けたプラズマ技術が推進されることが期待されます。
本成果は、2025年7月22日付の学術誌「Small Science」に掲載されました。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)ハロゲンフリープラズマ:
ハロゲン系ガス(フッ素、塩素、臭素などを含むガスの総称)を用いる通常のプラズマエッチングでは揮発性が高い反応生成物を生成し、それらが除去されることによって、材料をエッチングする。しかし、ハロゲン系ガスは、種類によって環境に有害になり、毒性が強く、燃焼もしにくいという特徴がある。ハロゲンフリープラズマは、ハロゲン系ガスを使わない、環境に優しいプラズマプロセス。
注2)原子層エッチング(ALE):
エッチング技術の一つで、化学種を表面に吸着させる反応過程と反応生成物を脱離・除去する過程を分離し、それぞれのステップを繰り返すことによって、原子層レベルの微細加工を可能にする技術。最先端の半導体デバイス製造で広く使用されるようになってきている。
注3)異方性原子層エッチング:
異方性エッチングは、マスクの下まで反応が進まず、マスク寸法通りにパターンを形成するエッチング。
注4)プラズマエッチング技術:
真空容器の中に導入したガスを高周波放電などにより解離、電離して、活性な化学種(イオン、およびラジカルと呼ぶ電荷中性の化学種)を用いて、基板温度を比較的低温のままで、機能性材料をエッチング(所望する部分の材料を除去してパターンを形成する)方法。
雑誌名:Small science
論文タイトル:Halogen-Free Anisotropic Atomic-Layer Etching of HfO₂ at Room Temperature
著者:Shih-Nan Hsiao, Pak-Man Yiu, Li-Chun Chang, Jyh-Wei Lee, Makoto Sekine, and Masaru Hori
※下線は本学関係教員
DOI: 10.1002/smsc.202500251
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smsc.202500251
低温プラズマ科学研究センター 蕭 世男(シャオ シーナン) 特任教授
https://www.plasma.nagoya-u.ac.jp/