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化学

2025.08.19

ナノ領域に閉じ込められた水の構造は 界面で見られる水の構造と同一であることを解明

【研究概要】

・非常に薄い領域に閉じ込められた水の構造は、閉じ込めの効果よりも界面との接触の効果で説明できることを解明。
・第一原理分子動力学法、機械学習分子動力学法の組み合わせによって、記述の難しい複合界面の和周波発生(SFG)分光スペクトル注1)を計算。

 

名古屋大学大学院工学研究科の大戸 達彦 准教授らの研究グループは、マックスプランクポリマー研究所(ドイツ)、厦門大学(中国)、東南大学(中国)との共同研究で、ナノメートルレベルの空間に閉じ込められた水の構造を和周波発生分光スペクトルの理論シミュレーションと計測を通じて明らかにしました。
 ナノスケールの領域に閉じ込められた水は、通常の状態にある水とは大きく異なる物性を示すことが発見されてきましたが、その性質がどのような特異な水素結合ネットワークに起因するのかは未解明でした。グラフェンとフッ化カルシウム(CaF₂)に挟まれた水に対して和周波発生振動分光スペクトルの測定と理論シミュレーションを行うことで、閉じ込められた水の構造はそれぞれの界面の効果の足し合わせで決まっていることが明らかになりました。
従来考えられていた厚みよりも非常に薄い8Å(オングストローム)程度までは界面接触効果が水の構造に与える影響が支配的であることを明らかにしたことで、ナノ構造を活用した新規材料設計への本知見の活用が期待されます。
本研究成果は、2025年8月7日付で学術誌『Nature Communications』に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)和周波発生(SFG)分光スペクトル:
赤外線と可視光線を混合することで、非線形光学応答により和周波を持つ光が生成される。この和周波光は中心対称性を持つ媒体からは発生しないため、対称性の破れた界面の分子振動を検出することができる。さらにヘテロダイン検出を行うことでSFG応答の虚部を直接測定すると、スペクトルの符号が双極子モーメントの向きに対応することから、界面の分子の配向も知ることができる。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Interfaces Govern Structure of Angstrom-scale Confined Water(オングスロームレベルで閉じ込められた水の構造は界面が決定する)
著者:Yongkang Wang, Fujie Tang, Xiaoqing Yu, Kuo-Yang Chiang, Chun-Chieh Yu, Tatsuhiko Ohto, Yunfei Chen, Yuki Nagata, Mischa Bonn (下線は本学関係者)
DOI: 10.1038/s41467-025-62625-w
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-025-62625-w

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 大戸 達彦 准教授
https://sites.google.com/view/cmsm-kimizlab