・食品廃棄物由来のメタン発酵残さ注1)を、滅菌せずにそのまま発酵基質として利用。
・酵母Saccharomyces pastorianusが48時間でバイオエタノール注2)収率89.4%を達成。
・滅菌条件ではエタノール生成が起こらず、残さに含まれる微生物群が発酵を助ける可能性を示唆。
・メタン発酵残さの新たな利活用法を示し、低コストバイオ燃料生産システム構築に貢献。
名古屋大学未来社会創造機構の谷村 あゆみ 特任講師、則永 行庸 教授らの研究グループは、株式会社バイオス小牧との共同研究で、食品廃棄物を用いたメタン発酵残さを滅菌せずにそのまま利用し、効率的にバイオエタノールを生産できることを実証しました。
本研究では、メタン発酵残さと廃飲料を混合した培地に酵母を接種し、滅菌条件と非滅菌条件を比較しながらバイオエタノール生産能力を調べました。その結果、酵母 Saccharomyces pastorianus NBRC 11024T は、非滅菌発酵注3)において48時間で最大27.4 g/L(理論収率の89.4%)のバイオエタノールを生成しました。
また、発酵中の微生物群動態を16S rRNA アンプリコン解析により追跡したところ、開始時に多様だった細菌群集が後期には Leuconostoc 属注4)優占へと遷移するなど、非滅菌残さに含まれる常在微生物が酵母と共存しつつ発酵環境を整える可能性が示されました。これらの結果は、処理負担となってきたメタン発酵残さに新たな出口(燃料化)を与えるもので、低コスト・省エネルギー型の資源循環に向けた有効な選択肢となり得ます。
本研究成果は、2025年9月3日付で英国科学誌『Bioresource Technology Reports』に掲載されました。
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注1)メタン発酵残さ:
メタン発酵(食品廃棄物や家畜排せつ物などの有機物を、酸素のない状態で微生物に分解させ、メタンを主成分とする「バイオガス」を作る技術。再生可能エネルギーとして発電などに利用されている)の後に残る液体の副産物。窒素やリンなどの栄養分を含む。主に肥料として使われるが、大量に排出されるため余剰分の処理が課題になっている。
注2)バイオエタノール:
サトウキビやトウモロコシなどの植物由来資源を発酵させて得られるアルコール燃料。自動車燃料やバイオ航空燃料(SAF)の原料として注目されている。
注3)非滅菌発酵:
常在する微生物が含まれる状態で行う発酵。通常は雑菌の混入を避けるために滅菌するが、本研究では非滅菌条件で培養し、低コストで効率的なエタノール生産を実現した。
注4)Leuconostoc属:
野菜や果物、乳製品など自然界に広く存在する細菌。キムチや漬物、チーズなどの発酵食品の製造にも関与する。
雑誌名:Bioresource Technology Reports
論文タイトル:Ethanol Production from Non-Sterile Methane Fermentation Residues for Waste-to-Biofuel Conversion
著者:*谷村あゆみ、*角澤教子、小長谷耕平、藤乗隆行、廣部智己、*菊地亮太、*則永行庸(*名古屋大学関係者)
DOI: 10.1016/j.biteb.2025.102285
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589014X25002671