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総合生物

2025.09.17

光合成反応における電子状態の観測に成功 酸素発生メカニズムの全体像解明へ前進

【研究概要】

・光合成で酸素をつくり出すマンガンクラスター注1)の「最も安定した状態(S1状態)」注2)の電子状態はこれまでよく分かっていなかった。
・そのマンガンクラスターのS1状態における電子状態の解明に成功した。
・併せて、S1状態における水分子およびプロトンの配置も特定した。
・新しいパルスEPR測定法により、従来は観測できなかったスピン状態を検出した。

 

光合成における酸素の発生反応は、地球上の生命活動を支える最も重要な化学反応の一つです。近年のX線結晶構造解析の進展により、この反応は「光化学系Ⅱ」と呼ばれるタンパク質に含まれる、4つのマンガン原子からなるクラスターで行われていることが明らかになってきました。
名古屋大学大学院理学研究科の小﨑 慎也 博士後期課程学生、中村 直彦 博士前期課程学生、三野 広幸 准教授らの研究グループは、岡山大学の中島 芳樹 助教、沈 建仁 教授らの研究グループと共同で、酸素発生を行うマンガンクラスターのS1状態におけるマンガン原子の電子状態・価数、さらにプロトン(水素イオン)の状態の観測に成功しました。 酸素発生反応は、水分子から酸素とプロトンを取り出す反応であり、水やプロトンの状態の詳細な観測は、反応メカニズムを理解するための鍵となります。測定には新しいパルス電子常磁性共鳴(EPR)法注3)を用いました。この手法により、従来は捉えきれなかった微細な電子状態やプロトンの動きが明らかになりました。
本研究により、光合成における酸素発生の仕組みのさらなる解明が期待されます。また、本研究で用いられた観測手法は、酸素発生の解明にとどまらず、さまざまなタンパク質の構造解析にも応用できるもので、今後広い分野での発展が期待されます。
本研究成果は、2025年9月14日付でAmerican Chemical Societyの雑誌『ACS Physical Chemistry Au』web版に掲載されました。
 また、本論文は、米国化学会が発行する専門誌に掲載された多くの論文の中から、特に優れた研究として、“ACS Editors’ Choice(編集者が選ぶ注目論文)”に選ばれました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)マンガンクラスター:
光化学系Ⅱの中に存在する、4つのマンガン原子と1つのカルシウム原子から構成される金属複合体で、光合成による水の酸化反応(酸素発生)を担っている。
注2)S1状態:
酸素発生サイクル中の安定な中間状態のひとつで、最も基本的な出発点となる電子状態。
注3)電子常磁性共鳴(EPR):
磁場中で電子のスピン状態を観測する分光技術。電子スピン共鳴(ESR)とも呼ぶ。今回は特にパルスEPRが使用された。

 

【論文情報】

雑誌名:ACS Physical Chemistry Au
論文タイトル:Electronic Structure of S1 State Manganese Cluster in Photosystem II Investigated using Q-band Selective Hole-Burning
著者:小崎慎也(名古屋大学理学研究科D1),中村直彦(名古屋大学理学研究科M2),中島芳樹(岡山大学理学研究科 助教), 沈建仁(岡山大学理学研究科 教授), 三野広幸(名古屋大学理学研究科 准教授)
DOI: 10.1021/acsphyschemau.5c00068
URL: https://doi.org/10.1021/acsphyschemau.5c00068

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 三野 広幸 准教授
https://www.bio.phys.nagoya-u.ac.jp/~mino/