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農学

2025.10.23

母ドリから卵黄へ抗体を集積する細胞輸送の仕組み解明 ~抗体の増産技術の開発やヒナの免疫機能の向上に貢献~

【ポイント】

・鳥類は母ドリの血液から卵へIgY(Immunoglobulin Y)抗体注1)を大量に輸送しており、生まれてくるヒナの免疫力を高める「母子免疫」機能をもつ。最近、鳥類固有のFcRY受容体注2)が卵へのIgY輸送を担うことを明らかにした。しかし、この受容体を発現する細胞がどのようにIgYを輸送しているのかは不明であった。

・卵黄を取り囲む毛細血管の内皮細胞において、血液中のIgYが細胞内に取り込まれた後、細胞内でFcRYとIgYが結合することでIgYが輸送されることを示した。

・本研究は、FcRYを利用して卵のIgYを増やす技術の開発につながり、病原抵抗性を持った抗体の安価な生産や新生ヒナの免疫機能の向上に貢献すると期待される。

 

名古屋大学大学院生命農学研究科の岡本 真由子 博士後期課程学生、村井 篤嗣 教授、古川 恭平 助教らの研究グループは、北海道大学の水島 秀成 准教授との共同研究で、母ドリの血液から卵へIgY抗体が大量に輸送されるメカニズムを解明し、鳥類の母子免疫の分子基盤を明らかにしました。

哺乳類を始めとする多くの動物は、母親の免疫成分を次世代へと輸送し、新生子を病原菌などの感染から防ぐ母子免疫機構を備えています。鳥類の母子免疫では、母ドリの血液を流れるIgY抗体が、卵黄を介してヒナへと輸送されます。最近、母ドリの血液から卵黄へのIgY輸送は、卵黄を取り囲む毛細血管の内皮細胞で発現するFcRY受容体が担うことを見出しました。本研究では、IgYが血管内皮細胞でFcRYとどのように結合して卵黄へと輸送されるのかを明らかにしました。血管内皮細胞を単離して免疫組織染色注3)を行うと、FcRYは細胞の中で小胞様に分布することを明らかにしました。この血管内皮細胞にIgYを添加すると、細胞の中でFcRYとIgYが結合することを実証しました。さらに、このFcRYとIgYの結合にはクラスリン依存的なエンドサイトーシス注4)と輸送小胞の酸性化が必要であることを明らかにしました。本研究は、FcRYを利用して卵のIgYを増やす技術の開発につながり、病原抵抗性を持った抗体の安価な生産や新生ヒナの免疫機能の向上、更にはこの輸送経路を使って、これまでにない成分を含む卵の生産に貢献すると期待されます。

本研究成果は、2025年10月14日付Elsevier雑誌『Poultry Science』にオンライン掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)IgY (Immunoglobulin Y) 抗体:

鳥類が独自に持つ免疫グロブリン。非自己物質(抗原)が体内に侵入すると、それに対して特異的に結合する。抗原の毒性の無効化や、貪食細胞による食作用の促進など免疫機構で重要な役割を担う。

注2)FcRY受容体:

鳥類のみが持つIgYの受容体。

注3)免疫組織染色:

組織切片上に特異抗体を添加して抗原抗体反応を生じさせ、目的のタンパク質を検出する手法。

注4)クラスリン依存的なエンドサイトーシス:

細胞膜の一部分がクラスリンと呼ばれるタンパク質で覆われ、内部へくぼみながら小胞を形成し、外部の物質を細胞内に取り込む仕組み。

 

【論文情報】

雑誌名:Poultry Science

論文タイトル:Intracellular Interaction between FcRY Receptor and IgY in Ovarian Vascular Endothelial Cells during Avian Maternal IgY Transfer

著者:Mayuko Okamoto, Kyohei Furukawa, Shusei Mizushima, Atsushi Murai

DOI: 10.1016/j.psj.2025.105946

URL: https://doi.org/10.1016/j.psj.2025.105946

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 村井 篤嗣 教授
https://anutr.agr.nagoya-u.ac.jp/