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総合生物

2025.11.21

DNAメチル化によるヒストン修飾の制御 エピゲノム維持の新メカニズム発見、精子形成過程の理解に新たな視点

【ポイント】

・哺乳類の生殖細胞では胎生期に大規模なDNAの脱メチル化と再メチル化注1)が生じる。

・DNAの再メチル化ができないオスの生後の生殖細胞では、レトロトランスポゾン注2)のヒストンメチル化注3)が異常になり、発現抑制が解除されていた。

・一般にヒストンの修飾状態によってDNAメチル化状態が決まることが多いが、精子形成過程ではDNAメチル化がエピゲノムを維持する中心的役割を担うことが分かった。これは最終的に精子で大部分のヒストンが消失することと関係しているのかもしれない。


名古屋大学大学院生命農学研究科の杉本 大空 博士前期課程学生(研究当時)、川瀬 雅貴 博士後期課程学生(研究当時)、一柳 健司 教授の研究グループは、DNAメチル化不全となるDnmt3l遺伝子のノックアウトマウスおよび小分子RNAの一種piRNAが合成できないPld6遺伝子のノックアウトマウスのオスの生殖細胞でのトランスクリプトーム(遺伝子やレトロトランスポゾンの転写状態)とエピゲノム(DNAメチル化状態およびヒストンメチル化状態)を解析し、胎生期にDNAメチル化を行えないと、精原細胞や精母細胞でレトロトランスポゾンのヒストンメチル化状態が異常になり、転写活性化することを発見しました。

マウスやヒトなど、哺乳類のゲノムにはレトロトランスポゾンが大量にあり、これらの転写活性をエピジェネティックに抑制できないと不妊になることが知られています。本研究では、エピジェネティックな制御機構におけるDNAメチル化とヒストンメチル化の新たな関係を見つけました。

本研究成果は、2025年11月20日18時(日本時間)付で、国際的な学術誌「Nucleic Acids Research」誌にオンライン掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)DNAメチル化:
DNA鎖のシトシン塩基がメチル化されること。転写開始点近傍のDNA配列がメチル化されると転写反応が抑制される。DNAメチル化により、遺伝子やレトロトランスポゾンの発現がエピジェネティックに制御されている。哺乳類の生殖細胞では始原生殖細胞で一旦、DNAメチル化がゲノム全体から消去される。

注2)レトロトランスポゾン:
自身の配列をRNAに一度コピーしてからDNAを作り、そのDNAをゲノムの別の場所に挿入するDNA配列の総称。ヒトやマウスのゲノムの中に数百万コピーあり、ゲノムの約半分を占める。LINE(L1を含む)、SINE、内在性レトロウイルスが知られている。
注3)ヒストンメチル化:
真核生物の核では、DNAはヒストン・タンパク質(H2A、H2B、H3、H4の4種)と結合してヌクレオソームという構造を作っている。ヌクレオソームにおけるヒストンはメチル化を受けることがあり、H3の9番目のリジンがメチル化されると(H3K9me3)ヌクレオソームが凝縮して転写が抑制される一方、H3の4番目のリジンがメチル化されると(H3K4me3)転写が活発化する。

 

【論文情報】

雑誌名:Nucleic Acids Research

論文タイトル:DNA methylation dictates histone modifications in developing male germ cells in the mouse.

著者:杉本大空#、川瀬雅貴#、一柳健司(#は共筆頭著者)

所属:名古屋大学大学院生命農学研究科ゲノム・エピゲノムダイナミクス研究室

DOI:10.1093/nar/gkaf1240

URL:https://doi.org/10.1093/nar/gkaf1240

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 一柳 健司 教授
http://nuagr2.agr.nagoya-u.ac.jp/~ged/index.html