・太陽フレア注1)によって2024年5月10日に発生した巨大磁気嵐注2)に伴う特異なプラズマ圏注3)・電離圏注4)電子密度の時間・空間変動の観測にジオスペース注5)探査衛星「あらせ」(以下「あらせ」衛星)が成功。
・プラズマ圏の大きさが地球半径の1.5倍の高度域にまで急速に縮小し、元の状態に回復するまで4日以上も要していたことを発見。
・プラズマ圏に存在する荷電粒子の起源である電離圏の電子密度が高緯度から低緯度に至る広範な領域で静穏時と比べて最大で90%減少していたことを確認。
・他の磁気嵐イベントと比べて極端にプラズマ圏の回復時間が長く、それには長時間の電離圏電子密度の低下が関与していることを明示する事例。
名古屋大学宇宙地球環境研究所の新堀 淳樹 特任助教らの研究グループは、全球測位衛星システム(GNSS)注6)と「あらせ」衛星などの観測データを解析し、2024年5月10日に発生した巨大磁気嵐時のプラズマ圏と電離圏の電子密度の時間変化と空間構造の観測に成功しました。
観測データにおいて、通常、地球半径(6,378 km: 赤道半径)の4~6倍の高度域までの宇宙空間に広がっているプラズマ圏が地球半径の1.5倍の高度域にまで急速に縮小し、元の状態にまで回復するまでに4日以上要していたことが分かりました。この回復時間は、通常の磁気嵐時に比べて約2倍長いことが統計解析からも明らかになりました。また、GNSSによる電離圏電子密度観測からは、高緯度から低緯度に至る広範な領域で電離圏の電子密度が静穏時と比べて最大で90%減少し、その状態が少なくとも2日以上も継続していたことが分かりました。
本研究は、このような巨大磁気嵐がもたらした異常な電離圏の希薄化がその上空の宇宙空間に広がるプラズマ圏の回復を阻害していることを初めて観測データ解析から明らかにしました。電離圏の希薄化は、電離圏での反射を利用した短波通信障害の原因となります。また、磁気嵐時のプラズマ圏の構造変化は、ジオスペースにおける高エネルギー粒子の生成に関わる電磁環境を制御します。これらは、宇宙の安全な利用に向けた宇宙天気の観点で予報が必要な項目です。本研究結果は、発生頻度の少ない巨大磁気嵐時の地球周辺の宇宙環境変動予測にも貢献する重要な事例です。
本研究成果は、2025年11月20日17時(日本時間)付Springer Nature社刊行の地球科学総合国際学術雑誌『Earth, Planets and Space』に掲載されました。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)太陽フレア:
太陽表面付近に存在する磁場によって引き起こされる数分から数時間のタイムスケールで起こる多波長の増光現象。
注2)磁気嵐:
地磁気が通常の状態から数時間から1日程度の時間をかけて減少し、その後数日かけて徐々にもとの強さまで回復していくという過程をとる地磁気擾乱現象。この過程の中で地磁気が減少して磁気嵐が発達する過程を主相、回復する過程を回復相と呼ぶ。磁気嵐時に変化する地上磁場は通常時の地上磁場の1000分の1程度であるが、巨大磁気嵐の場合は通常時の地上磁場の100分の1程度にも達する変化が観測される。
注3)プラズマ圏:
電離圏起源の低エネルギー(低温)の荷電粒子群(プラズマ)から構成され、比較的高密度のプラズマが存在する領域。この領域は、電離圏の外側から地球磁気圏の内側に存在し、その外側境界でプラズマ密度が1桁程度、急激に減少する。その境界はプラズマ圏界面と呼ばれている。
注4)電離圏:
地球を取り巻く超高層大気中の分子や原子が、紫外線やエックス線などにより電離した、高度約60~1,000kmの領域。この領域は電波を吸収、屈折、反射する性質を持ち、これによって短波帯などの電波伝搬に影響を及ぼす。
注5)ジオスペース:
人類の活動域となりつつある、地球周辺の宇宙空間。
注6)全球測位衛星システム(GNSS):
アメリカのGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、ロシアのGLONASS、欧州連合のGalileo等の衛星から発せられる信号を用いた位置測定・航法・時刻配信を行う衛星測位システムの総称。その中で、よく認知されている全地球測位衛星システム(GPS)は、上空約2万kmを周回するGPS衛星(6軌道面に30個配置)、GPS衛星の追跡と管制を行う管制局、測位を行うための利用者の受信機で構成される。
雑誌名:Earth, Planets and Space
論文タイトル:Characteristics of temporal and spatial variation of the electron density in the plasmasphere and ionosphere during the May 2024 super geomagnetic storm
著者:
新堀 淳樹 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
北村 成寿 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
山本 和弘 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
熊本 篤志 東北大学大学院 理学研究科 准教授
土屋 史紀 東北大学大学院 理学研究科 教授
笠原 禎也 金沢大学学術メディア創成センター
先端宇宙理工学研究センター 教授
松田 昇也 金沢大学理工研究域 電子情報通信学系
先端宇宙理工学研究センター 准教授
寺本 万里子 九州工業大学 大学院工学研究院
宇宙システム工学研究系 准教授
松岡 彩子 京都大学 大学院理学研究科 教授
惣宇利 卓弥 京都大学 生存圏研究所 特定研究員
大塚 雄一 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 准教授
西岡 未知 情報通信研究機構 電磁波研究所 主任研究員
ペルウィタサリ セプティ 情報通信研究機構 電磁波研究所 研究員
三好 由純 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授
篠原 育 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 教授
DOI:10.1186/s40623-025-02317-3
URL:https://doi.org/10.1186/s40623-025-02317-3