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化学

2025.11.05

サブナノ厚みを自在に操る:二次元シリカの新合成戦略 新規特性も発現、水解離触媒などの材料設計指針に

【ポイント】

・固相界面活性剤注1)を鋳型として利用し、非層状化合物であるアモルファス注2)シリカナノシート注3)の厚みを1ナノメートル(ナノは10億分の1)より薄い精度で制御することに成功。

・得られたナノシートは高い均一性と分散安定性を示し、二次元稠密(ちゅうみつ)集積膜を用いてバンドギャップ注4)や絶縁破壊電圧、水解離反応の触媒活性の厚さ依存性を調査。

・これまで水解離触媒として不活性だと考えられてきたアモルファスシリカが極薄膜化することで高性能な触媒となることを発見。

・地殻中に豊富に存在するアモルファスシリカの高度な機能化は、資源制約の少ない新材料創製につながる。

 

名古屋大学未来材料・システム研究所(IMaSS)の山本 瑛祐 助教、長田 実 教授らの研究グループは、固相界面活性剤を鋳型とする合成手法を活用し、厚さをサブナノメートル(1ナノメートル未満)レベルで精密に制御できるアモルファスシリカナノシートの合成に成功しました。

二次元ナノ材料はその厚さによって電子状態や触媒特性が大きく変化するため、サブナノメートル精度で厚みを制御することは二次元材料科学の重要課題の一つです。しかし、アモルファスシリカのような非層状化合物は一般的に三次元方向に成長するため、ナノシートの均一な厚み制御は困難とされてきました。

本研究では、ポリエチレンオキシド(PEO)鎖を持つ固相の界面活性剤を鋳型として活用し、界面活性剤の分子設計により、厚みを自在に制御できることを明らかにしました。得られたナノシートは高い分散安定性を持ち、二次元稠密集積膜を形成できることが確認されました。さらに、アモルファスシリカナノシートの厚みが特性に与える影響を調査したところ、バンドギャップは厚みによらず一定であったものの、厚みが薄いほど絶縁耐圧が高まることが分かりました。さらに、バイポーラ膜(BPM)注5)の触媒として活用したところ水解離反応における触媒活性も向上することを発見しました。従来ほとんど水解離触媒能がないと考えられていたアモルファスシリカが、分子スケールにまで薄くすることで機能を発揮することを明らかにした点も極めて重要であり、今後のバイポーラ膜設計に新たな知見を与えると想定しています。 

本研究成果は、2025年11月4日付で米国化学会誌『ACS Nano』に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)界面活性剤:
分子内に親水的な官能基と疎水的な官能基を有する両親媒性物質。
注2)アモルファス:
結晶構造に長距離規則性が無く、無秩序な構造を有する物質。
注3)ナノシート:
原子1層、数層から成る物質。代表的な物質として、グラフェン、六方晶BN、遷移金属カルコゲナイド(MoS2、WS2など)がある。
注4)バンドギャップ:
バンド構造における価電子帯の頂上から、伝導帯の底までの間のエネルギー準位
注5)バイポーラ膜(BPM):
カチオン(プラスの電荷を持つイオン)交換膜とアニオン(マイナスの電荷を持つイオン)交換膜という、イオン選択性の異なる2種類の膜を積層して構成される複合膜。両膜の界面では、水分子が水素イオン(H⁺)と水酸化物イオン(OH⁻)に解離する「水解離反応(Water Dissociation)」が促進される。バイポーラ膜は水から酸と塩基を同時に生成できるため、水電解、燃料電池、二酸化炭素分離・回収、レドックスフロー電池など、多くのエネルギー変換・貯蔵技術への応用が期待されている。

 

【論文情報】

雑誌名:ACS Nano

論文タイトル:Surfactant Templating for the Subnanometer Thickness Engineering of Free-Standing Nonlayered Nanosheets

著者:Eisuke Yamamoto*(名古屋大学助教), Yuma Takezaki, Renjiro Hara, Makoto Kobayashi, Ruben Canton Vitoria, Zixiao Shi, David A. Muller, Thomas E. Mallouk, and Minoru Osada (名古屋大学教授)

DOI:10.1021/acsnano.5c13829 

URL:https://doi.org/10.1021/acsnano.5c13829

 

【研究代表者】

未来材料・システム研究所 山本 瑛祐 助教, 長田 実 教授
https://mosada-lab-nagoya.com