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生物学

2025.11.04

カイメンに"吸盤"で張り付いて生きるゴカイの新種を発見! 深海の海底で共生関係を築き堆積物のない世界に適応

【ポイント】

・日本の南大東島沖・水深843メートルで、吸盤のような器官でカイメンに付着して生きる新種のゴカイ 「キュウバンフサゴカイ」(Lanice spongicola sp. nov.)を発見。

・通常は泥の中で暮らすフサゴカイ類(フサゴカイ科)が、堆積物のない環境に適応し、カイメンとの共生関係を築いていることを確認。

・吸盤状の腹面構造は、ホスト生物(カイメン)への付着を可能にする進化的形質であり、深海生物の生態的多様性や進化の理解に新たな知見をもたらす。

 

名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所の自見 直人 講師らの研究チームは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、産業技術総合研究所および琉球大学との共同調査において、南大東島沖の深海(水深843メートル)で、カイメンに付着して生活する新種のゴカイを発見しました。本種は「キュウバンフサゴカイ Lanice spongicola sp. nov.」と命名されました。

本種は、一般的に堆積物中に巣を作って暮らすフサゴカイ類の中で、例外的に“堆積物のない環境”に進出した種です。体の前方(第2〜第6体節)に発達する吸盤状の構造を用いて、ガラス質のカイメン「スギノキカイメン」の表面にしっかりと張り付き、そこで管状の巣を形成して暮らしています。

この吸盤のような器官は、フサゴカイ類ではこれまで知られていない新しい付着適応形質であり、進化の結果強い海流と岩盤のみの深海海山(かいざん)注1)環境という厳しい条件下で生活することができるようになったと考えられます。

この発見は、泥や砂に頼って生きるとされてきたフサゴカイ類において、新しい構造(吸盤)が進化によって獲得されることで、他生物との共生関係を築き、堆積物のない環境に適応していったことを示すものです。また、こうした“形態の革新”が、生物の多様化を生み出す過程を理解するうえで、重要な研究材料となります。

本研究成果は、2025年11月3日19時(日本時間)付Nature & Springer Publishingが発行する国際査読付き雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)海山: 

海山とは、海底から山のように盛り上がった地形のことを指します。

もともとは火山活動によって形成されたもので、高さが数千メートルに達するものもあります。海山の周囲では海流がぶつかり合い、上昇流(栄養塩を運ぶ流れ)が発生するため、プランクトンや底生生物が集まりやすく、深海の中でも特に生物多様性が高い場所として知られています。

また、急峻な地形のため堆積物がたまりにくく、岩盤や海綿などの硬い基質に付着して生きる生物が多く見られます。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports

論文タイトル:New deep sea terebellid polychaete with sucker like ventral pads adapted to a sediment free environment

著者:Naoto Jimi, Geminne G. Manzano, Natsumi Hookabe, Hiroki Kise, James Davis Reimer, Sau Pinn Woo, Yoshihiro Fujiwara

DOI:10.1038/s41598-025-23333-z

URL:https://doi.org/10.1038/s41598-025-23333-z

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 自見 直人 講師
https://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~SugashimaMBL/