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工学

2025.12.08

3Dプリンタアルミニウムの強度・変形メカニズム解明 力学機能制御の技術開発加速へ

【ポイント】

・レーザビームを用いる金属3Dプリンタ注1)技術を用いて製造したアルミニウム合金注2)の強度と変形メカニズムを、「マイクロピラー圧縮試験注3)」を用いて解明した。
・不均一なミクロ・ナノ組織注4)の特徴を持つ「溶融注5)池構造(melt-pool structure)」における個々の領域の機械的性質注6)を実験的に明らかにした。

・本研究にて見出された理解はアルミニウムだけでなく他の金属へも適用できるため、金属3Dプリンタ技術を利用した力学機能制御の技術開発を加速させることが期待される。

 

名古屋大学大学院工学研究科のキム ダソム 助教、塚田 祐貴 准教授、高田 尚記 教授らの研究グループは、金属3Dプリンタ技術のひとつであるレーザ粉末床溶融結合(L-PBF)法注7)を用いて製造したアルミニウムの強度と変形のメカニズムを解明しました。
L-PBF法にて生成する不均一なミクロ・ナノ組織の特徴を有する溶融池構造の異なる領域から、数マイクロメートルの単結晶試験片注8)(マイクロピラー)を作製しました。それらの圧縮試験の結果、溶融池境界の領域は溶融池内部の領域より低い強度を示すことを実験的に明らかにし、通常の金属では認められない特異な変形挙動を示すことも見出しました。
金属3Dプリンタ技術が生み出す不均一なミクロ・ナノ組織の強度と変形の基礎に関する本研究成果は、アルミニウムだけでなく、種々の金属に応用可能です。そのため、本成果の基礎理解は、金属3Dプリンタ技術を利用した機能制御の技術開発を大きく加速させることが期待されます。
本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(A) 『金属3Dプリンタ技術が生み出す革新的耐熱アルミニウム合金の強化原理』 及び 戦略的創造研究推進事業 さきがけ [未来材料] 物質探索空間の拡大による未来材料の創製 『金属3Dプリンタを用いた非平衡組織・準安定相の創出』 の一環として遂行されました。
本研究成果は、2025年11月27日付で3Dプリンタ技術に関する国際学術誌「Additive Manufacturing」に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)金属3Dプリンタ:
コンピュータで制作した3次元データを使い、金属を用いてその形に造形する装置。 国際規格ISO/ASTM 52900 により、3Dプリンタ技術は7つのカテゴリに分類され、金属に適用可能な手法は4つである。
注2)合金:
二種以上の金属を混ぜた材料・物質。金属と非金属元素を混ぜた材料も、金属的性質を持つものは合金と呼ばれる場合が多い。
注3)圧縮試験:
試験片に圧縮力(荷重)を加え、押しつぶす力と材料の耐圧性を測定する試験法。
注4)ミクロ・ナノ組織:
一般に「材料組織」と呼ばれることも多く、材料を観察する際に肉眼では見えない微細な構造(結晶の集合体)を指す。結晶の種類、大きさ、分布によって物性は変化する。ミクロ組織は、光学顕微鏡や走査電子顕微鏡で観察される数十倍から数千倍程度の結晶、欠陥、介在物などを指す。ナノ組織は、さらに微細な領域での、結晶構造などの大きさがナノメートル(nm)単位の構造を指す。
注5)溶融:
固体の物質が熱を受けて液体になる現象。融解とも呼ぶ。
注6)機械的性質:
材料が持つ連続体としての力学的な物性の総称(引張強度、降伏点、伸び、絞り、硬さ、衝撃値などを含む)を示す。 特に、材料の種類によって引張・圧縮・せん断などの外力に対する耐久性を示すものを「強度」と呼び、材料の加工のしやすさの尺度にもなる。
注7)レーザ粉末床溶融結合(L-PBF)法:
英語では、Laser Powder Bed Fusion(L-PBF)と呼ぶ。3次元データに基づいて、一層ずつ金属粉末を積み重ね、これを繰り返して対象物を造形する。具体的には、レーザ(Laser)照射を利用し、数十マイクロメートル厚さの金属粉末層(Powder Bed)を結合(Fusion)させる過程を繰り返し、金属の構造体を製造する技術。
注8)単結晶試験片:
試験片が一つの結晶で構成されている。試験片全体で原子配列が完全に揃っており、結晶軸の方向が変わらないもの。

 

【論文情報】

雑誌名:Additive Manufacturing
論文タイトル: Microstructural factors in melt-pool structure for mechanical behavior of Al-Fe alloy manufactured by laser-beam powder bed fusion: Single-crystal micropillar compression test approach
著者: Dasom Kim (Nagoya Univ.), Akihiro Choshi (Nagoya Univ.), Yuhki Tsukada(Nagoya Univ.), Naoki Takata (Nagoya Univ.)
DOI: 10.1016/j.addma.2025.105035 
URL: https://doi.org/10.1016/j.addma.2025.105035

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 高田 尚記 教授, 主著者;キム ダソム  助教
https://www.material.nagoya-u.ac.jp/structuralmaterials