・タンパク質合成に失敗したリボソーム注1)をどうやって再利用するかは不明であった。
・eIF2Dという遺伝子はタンパク質合成に失敗したリボソームを再利用する機能を持つことが分かった。
・eIF2Dが欠失すると、タンパク質合成に失敗したリボソームがmRNA注2)上に残ったままになり、後続のリボソームと衝突することが分かった。
名古屋大学大学院理学研究科および環境医学研究所の松本 有樹修 教授と同大学大学院理学研究科の市原 知哉 助教、白石 大智 研究員らの研究グループは、兵庫県立大学の今高 寛晃 教授、町田 幸大 准教授、国立遺伝学研究所の豊田 敦 特任教授、理化学研究所生命医科学研究センターの伊藤 拓宏 チームディレクター(生命機能科学研究センター 上級研究員)らとの共同研究により、タンパク質合成の途中で不安定化したリボソームを除去し、次のタンパク質合成に再利用する分子機構を発見しました。
翻訳は、DNAからmRNAに写し取られた情報をもとに、タンパク質を産生する過程です。最近の研究により、負電荷アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)に富んだタンパク質を産生する際、一部のリボソームは不安定化して翻訳が中断することが発見されました。しかし、翻訳が中断された後にリボソームがどう処理されるかについては不明なままでした。
本研究では、これまで機能が分かっていなかったeIF2Dという遺伝子を欠損させた細胞において、翻訳中断後のリボソームがmRNA上に残ったままになることを発見しました。また、mRNA上に残ったリボソームは後から来たリボソームと衝突してしまい、本来作られるはずだったタンパク質の量が減少することが分かりました。
タンパク質の合成異常は神経変性疾患などの原因になることが知られています。今回発見した機構が神経変性疾患などをはじめとしたさまざまな疾患の発症機構の理解につながることが期待されます。
本研究成果は、2025年12月3日付国際学術雑誌「Nucleic Acids Research」に掲載されました。
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注1)リボソーム:
タンパク質の合成を担う巨大複合体。
注2)mRNA:
messenger RNAの略で、タンパク質を合成するための塩基配列情報を持ったRNA。その遺伝子情報は特定のアミノ酸に対応するコドンと呼ばれる3塩基配列という形になっていて、リボソームがmRNAの情報からタンパク質を合成する反応を翻訳と呼ぶ。
雑誌名:Nucleic Acids Research
論文タイトル:eIF2D promotes 40S ribosomal subunit recycling during intrinsic ribosome destabilization
著者:市原 知哉(名古屋大学)、白石 大智(名古屋大学)、茶谷 悠平(岡山大学)、木藤 有紀(九州大学)、白石 千瑳(名古屋大学)、平田 実奈(名古屋大学)、髙橋 優太(名古屋大学)、幸保 明直(東京科学大学)、幡野 敦(新潟大学)、松本 雅記(新潟大学)、町田 幸大(兵庫県立大学)、今高 寛晃(兵庫県立大学)、豊田 敦(国立遺伝学研究所)、三城(佐藤) 恵美(名古屋大学)、野島 孝之(九州大学)、伊藤 拓宏(理化学研究所)、田口 英樹(東京科学大学)、中山 敬一(東京科学大学)、松本 有樹修(名古屋大学)
DOI: 10.1093/nar/gkaf1322
URL: https://doi.org/10.1093/nar/gkaf1322
大学院理学研究科 松本 有樹修 教授
https://ger.sub.jp/