・レーザビームを用いる金属3Dプリンタ注1)技術を利用した非平衡なミクロ・ナノ組織注2)の制御に向けた元素選択の考え方を新たに提案した。
・提案した考え方に基づいて開発したアルミニウム-鉄(Al-Fe)系合金注3)の造形体は、高強度や高耐熱性などのさまざまな機能を有し、第3・第4元素によって制御できることを明らかにした。
・この考え方はアルミニウム系合金だけでなく他の金属へも適用できるため、金属3Dプリンタ用の新たな材料開発を大きく加速させることが期待される。
名古屋大学大学院工学研究科の材料デザイン工学専攻 高田 尚記 教授、キム ダソム 助教らの研究グループは、物質プロセス工学専攻 小橋 眞 教授、鈴木 飛鳥 准教授、加藤 正樹 博士 招へい教員(本務:あいち産業科学技術総合センター)と連携し、金属3Dプリンタ技術の一つであるレーザ粉末床溶融結合法注4)が生み出す非平衡なミクロ・ナノ組織の制御に向けた元素選択の考え方を提案しました。この考え方を基に、アルミニウム(Al)と鉄(Fe)を基本組成とする新たな合金の種類を開発しました。開発した合金は3Dプリンタで造形可能なだけでなく、高強度や高耐熱性など多用な機能を有します。
本研究で開発されたAl-Fe合金系は自動車エンジン用圧縮機の回転体部品など、さまざまな軽量・耐熱部材への社会実装が見込めるだけでなく、本成果にて提案された考え方はAlだけでなく他の金属へも適用できるため、金属3Dプリンタに適用可能な新たな材料の開発を大きく加速させることが期待されます。
本研究成果は2025年12月15日19時(日本時間)付『Nature Communications』に掲載されました。
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注1)金属3Dプリンタ:
コンピュータで制作した三次元データを使って、その形に金属を用いて造形する装置。 国際規格ISO/ASTM 52900により、3Dプリンタ技術は七つのカテゴリに分類され、金属に適用可能な手法は四つ(L-PBF法はこの一つ)である。
注2)ミクロ・ナノ組織:
一般に「材料組織」と呼ばれることも多く、材料を観察する際に肉眼では見えない微細な構造(結晶の集合体)を指す。結晶の種類、大きさ、分布によって物性は変化する。ミクロ組織は、光学顕微鏡や走査電子顕微鏡で観察される数十倍から数千倍程度の結晶、欠陥、介在物などを指す。ナノ組織は、さらに微細な領域での、結晶構造などの大きさがナノ(10億分の1)メートル(nm)単位の構造を指す。
注3)合金:
二種以上の金属を混ぜた材料・物質。金属と非金属元素を混ぜた材料も、金属的性質を持つものは合金と呼ばれる場合が多い。
注4)レーザ粉末床溶融結合法:
英語では、Laser Powder Bed Fusion(L-PBF)と呼ぶ。三次元データに基づいて、一層ずつ金属粉末を積み重ね、これを繰り返して対象物を造形する。具体的には、レーザ(Laser)照射を利用し、数十マイクロ(100万分の1)メートル厚さの金属粉末層(Powder Bed)を結合(Fusion)させる過程を繰り返し、金属の構造体を製造する技術。
雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Design of high-performance sustainable aluminum alloy series for laser additive manufacturing
著者:Naoki Takata (Nagoya Univ.), Koki Minamihama (Nagoya Univ.), Takanobu Miyawaki (Nagoya Univ.), Yue Cheng (Nagoya Univ.), Yifan Xu (Nagoya Univ.), Wenyuan Wang (Nagoya Univ.), Dasom Kim (Nagoya Univ.), Asuka Suzuki (Nagoya Univ.), Makoto Kobashi (Nagoya Univ.), Masaki Kato (Aichi Center for Industry and Science Technology)
DOI: 10.1038/s41467-025-67281-8
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-025-67281-8
大学院工学研究科 高田 尚記 教授
https://www.material.nagoya-u.ac.jp/structuralmaterials