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医歯薬学

2025.12.02

レビー小体病予備群に対するゾニサミドの効果を検証 ~今後の先制・予防治療実現に向けた臨床試験設計への示唆~

【ポイント】

・レビー小体病は、パーキンソン病とレビー小体型認知症を含む疾患概念であり、国内患者数は約100万人にのぼる。
・有効な疾患修飾療法(進行抑制・予防薬)はいまだ存在せず、運動症状や認知機能障害が出現した時点では神経変性がすでに高度に進行している。
・本研究は、便秘・レム睡眠行動異常症・嗅覚低下などの前駆症状(プロドローマル症状)を有し、ドーパミントランスポーターシンチグラフィ(DaT-SPECT)またはMIBG心筋シンチグラフィで異常を示すレビー小体病発症ハイリスク者(予備群)29名を対象に、抗パーキンソン病薬ゾニサミドの疾患修飾効果を検証した。
・ゾニサミド群(14名)とプラセボ(偽薬)群(15名)に無作為に割り付け、96週間のプラセボ対照二重盲検多施設共同第Ⅱ相臨床試験(NaT-PROBEi試験)を実施した。
・主要評価項目(DaT-SPECTによる線条体ドーパミントランスポーター集積率の96週変化量)で、ゾニサミド群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった。
・副次評価項目で、ゾニサミド群では非運動症状(うつ・QOLなど)の悪化傾向がみられた一方、プラセボ群では2名がパーキンソン病を発症した。
・本試験ではゾニサミドの疾患修飾効果は明らかに示されなかったが、対象者の層別化の必要性、長期観察や代替バイオマーカーの重要性など、今後の先制・予防治療に向けた臨床試験デザイン構築のための重要な知見が得られた。
・本成果は、神経変性疾患における「発症前介入」の実現可能性を検証する国際的研究の流れの中で、本邦発のエビデンスとして大きな意義を有する。

 

名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野 雅央 教授、医学部附属病院脳神経内科の平賀 経太 医員(筆頭著者)らの研究グループは、国立長寿医療研究センター、名古屋市立大学大学院医学研究科との共同研究により、神経変性疾患*1のひとつであるレビー小体病の発症前段階(プロドローマル期)に対する初の薬物介入試験を実施しました。
レビー小体病は、パーキンソン病*2とレビー小体型認知症*3を含む疾患概念で、国内患者数は約100万人にのぼります。発症時にはすでに神経変性が進行しており、進行を抑える疾患修飾療法はいまだ存在しません。このため、便秘やレム睡眠行動異常症*4、嗅覚低下などの前駆症状(プロドローマル症状)がみられる発症前の段階で治療介入することが重要と考えられています。
 本研究では、勝野教授らの研究グループが開発した、アンケートによるレビー小体病発症リスク検出法(Hattori et al. J Neurol. 2020; Hattori et al. NPJ Parkinsons Dis. 2023)を用いて抽出したハイリスク者(予備群)29名を対象に、抗パーキンソン病薬ゾニサミドの疾患修飾効果を検証しました。被験者をゾニサミド群(14名)、プラセボ(偽薬)群(15名)に無作為に割り付け、96週にわたるプラセボ対照二重盲検多施設共同第Ⅱ相臨床試験(NaT-PROBEi試験)を実施しました。
 主要評価項目であるドーパミントランスポーターシンチグラフィ(DaT-SPECT)*5による線条体ドーパミントランスポーター集積率の96週変化量において、ゾニサミド群とプラセボ群の間に有意差はみられませんでした。副次評価項目である運動・認知機能の96週変化量においても差はみられませんでしたが、ゾニサミド群では非運動症状(うつやQOLなど)の悪化傾向がみられた一方、プラセボ群では2名がパーキンソン病を発症しました。
 本試験の結果はゾニサミドの発症抑止効果を示すものではありませんでしたが、対象者層別化の重要性、長期観察期間や代替バイオマーカーの必要性など、今後の先制・予防治療に向けた臨床試験デザイン上の課題を明確化する重要な知見が得られました。

 

本研究成果は、2025年12月1日付(日本時間12月1日19時)米国科学雑誌『npj Parkinson’s Disease』に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

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【用語説明】

*1)神経変性疾患:特定の種類の神経細胞が進行性に変性する(死滅する)疾患の総称。神経変性疾患に共通する病理学的な特徴として、神経細胞の中や周囲に異常なタンパク質が蓄積し、それによって特定の種類の神経細胞が障害されることが知られている。パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症などが神経変性疾患の代表的疾患。
*2)パーキンソン病:神経細胞内にα-シヌクレインという異常なタンパク質が蓄積し、主に脳内のドーパミン神経に障害を起こすことで、運動緩慢、筋強剛(筋肉や関節が固くなる)、振戦(手足の震え)、姿勢反射障害(転びやすくなる)などのパーキンソン症状を引き起こす進行性の難病。
*3)レビー小体型認知症:神経細胞内にα-シヌクレインという異常なタンパク質が蓄積することで、幻視を始めとする認知機能障害やパーキンソン病に類似した運動症状を引き起こす進行性の難病。
*4)レム睡眠行動異常症:レム睡眠(浅い眠り)中に筋肉を抑制する神経の働きが悪くなり、夢の中の行動がそのまま寝言や体動となって現れる病期。
*5)ドーパミントランスポーターシンチグラフィ(DaT-SPECT):123I-イオフルパンという物質を注射して脳のドーパミントランスポーターの働きを調べる画像検査。パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者では脳内のドーパミン神経が変性・脱落するため、123I-イオフルパンの取り込みが低下する。

 

【論文情報】

雑誌名:npj Parkinson’s Disease
論文タイトル:Phase II pilot randomized trial of zonisamide for disease modification in prodromal Lewy body disease
著者:Keita Hiraga, MD, PhD1, Makoto Hattori, MD, PhD1, Daigo Tamakoshi, MD1, Yuki Satake, MD1,2, Taiki Fukushima, MD1, Yuki Saito, MD1, Takashi Uematsu, MD, PhD1, Takashi Tsuboi, MD, PhD1, Maki Sato1, Katsunori Yokoi, MD, PhD3, Keisuke Suzuki, MD, PhD4, Yutaka Arahata, MD, PhD3, Yoshino Ueki, MD, PhD5, Fumie Kinoshita, PhD6, Hiroshi Matsuda, MD, PhD7, Akihiro, Murata8, Masayuki Yamamoto, MD, PhD9, Masakazu Wakai, MD, PhD10, Noriyuki Matsukawa, MD, PhD11, Yukihiko Washimi, MD, PhD12, Masahisa Katsuno, MD, PhD1,13        
1 Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Department of Neurology, Daido Hospital, Nagoya, Japan
3 Department of Neurology, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Aichi, Japan
4 Innovation Center for Translational Research, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Aichi, Japan
5 Department of Rehabilitation Medicine, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Nagoya, Japan
6 Department of Advanced Medicine, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
7 Drug Discovery and Cyclotron Research Center, Southern Tohoku Research Institute for Neuroscience, Fukushima, Japan
8 Affairs Department, Nihon Medi-Physics Co., Ltd., Tokyo, Japan
9 Kumiai kosei Hospital, Takayama, Gifu, Japan
10 Chutoen General Medical Center, Kakegawa, Shizuoka, Japan
11 Department of Neurology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Nagoya, Japan
12 Department of Comprehensive Care and Research on Memory Disorders, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Aichi, Japan
13 Department of Clinical Research Education, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan


DOI:10.1038/s41531-025-01198-3

https://www.nature.com/articles/s41531-025-01198-3

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 神経内科学 勝野 雅央 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/neurology/