・胆道閉鎖症注1)に対する手術法および術後の補助療法については、依然として最適な治療方針に関して議論が続いている。
・本研究では、国際的な小児外科施設における22年間356名の胆道閉鎖症患児を対象に、腹腔鏡下葛西術注2)と開腹葛西術の長期的な自己肝生存率注3)への影響を評価した。
・腹腔鏡下葛西術は術後5年時点における自己肝生存期間で、従来の開腹葛西術と同等であることが明らかとなった。
・高用量(プレドニゾロン換算90mg/kg)のステロイド投与は肝移植と関連し、長期的な自己肝生存率の改善には寄与しない可能性が示唆された。
名古屋大学医学部附属病院小児外科の中川 洋一医員(筆頭著者)および同大学大学院医学系研究科小児外科学の内田 広夫教授(責任著者)を中心とする国際共同研究グループは、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科小児外科学の家入 里志教授、香港大学外科学講座のKenneth Wong教授、順天堂大学医学部附属順天堂医院 小児外科・小児泌尿生殖器外科の古賀 寛之先任准教授(研究当時、現:東京医科大学 消化器・小児外科学分野 准教授)らとともに、胆道閉鎖症に対する腹腔鏡下葛西術の中長期成績が、従来の開腹術と同等であることを明らかにしました。
胆道閉鎖症は、新生児から乳児期にかけて原因不明に胆管が閉塞して肝硬変へと進行する重篤な疾患であり、およそ半数の患者が肝移植を必要とします。根治的な治療は外科手術(葛西術)ですが、近年では、より低侵襲な腹腔鏡下による葛西術の導入が進んでいます。ただし、その中長期的な治療成績、特に術後2年以上経過した症例における有効性は十分に検証されていませんでした。
本研究では、国際的な小児外科施設における22年間356名の胆道閉鎖症患児を対象に、腹腔鏡下葛西術と開腹葛西術の長期的な自己肝生存率への影響を評価しました。その結果、腹腔鏡下葛西術は開腹術と比較して、術後5年時点における自己肝での生存期間に差を認めないことが判明しました。また副次的な解析により、術後に高用量ステロイド(プレドニゾロン換算90mg/kg以上)を投与された群では、むしろ肝移植と関連しており、過剰なステロイド投与が長期的な自己肝生存の改善に結びつかない可能性を示唆しています。
本研究成果により、腹腔鏡下葛西術は、今後の胆道閉鎖症に対する標準的な治療選択肢としての位置付けが期待されます。また、長期自己肝生存を目的とした過剰なステロイド投与を再考すべきことも明らかになりました。
本研究成果は、2025年11月24日に、香港のThe Society for Translational Medicineが発行する公式学術誌『Hepatobiliary Surgery and Nutrition』にオンライン掲載されました。
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注1)胆道閉鎖症:
胆道閉鎖症は、生後まもなく肝外胆管が閉塞することで胆汁の流れが障害され、肝硬変や肝不全を引き起こす原因不明の疾患です。約1万人に1人の割合で発生し、放置すると致命的となるため、早期の外科的治療が必要です。
注2)葛西術:
葛西(かさい)術は、胆道閉鎖症の患児に対して行われる肝門部空腸吻合術です。閉塞した胆管を切除し、肝臓と小腸を直接つなぐことで胆汁の流れを回復させる唯一の治療法です。1950年代に東北大学の葛西森夫教授により開発され、世界中で標準治療として用いられています。
注3)自己肝生存率:
自己肝生存率とは、肝移植を受けることなく自分の肝臓で生存している患者の割合を示す指標です。胆道閉鎖症などの小児肝疾患では、治療後にどれだけ長く自分の肝臓で生活できるかを評価するために用いられます。
雑誌名:Hepatobiliary Surgery and Nutrition
論文タイトル:Impact of laparoscopic Kasai portoenterostomy on long-term native liver survival in patients with biliary atresia: A multicentre propensity score-matched study
著者:Yoichi Nakagawa1, Yudai Tsuruno2, Fanny Yeung3, Masahiro Takeda4, Akihiro Yasui1, Toshio Harumatsu2, Patrick Chung3, Junya Ishii4, Hiroo Uchida1, Satoshi Ieiri2, Kenneth Wong3, Hiroyuki Koga4
所属
1Department of Pediatric Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya, Aichi, 466-8550, Japan
2Department of Pediatric Surgery, Research Field in Medical and Health Sciences, Medical and Dental Area, Research and Education Assembly, Kagoshima University, Kagoshima, Japan
3Department of Surgery, The University of Hong Kong, Queen Mary Hospital, Hong Kong
4Department of Pediatric General & Urogenital Surgery, Juntendo University School of Medicine, Tokyo, Japan
DOI: 10.21037/hbsn-2025-143
医学部附属病院 小児外科 中川 洋一 医員
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/clinical-med/surgery/pediatric-surg/