・石英(せきえい)の結晶度注1)、粒径、被熱温度注2)の間に、以下の一般法則があることを世界で初めて、明らかにした。
結晶度 = 3.57 × ln (粒径) + 6.46
被熱温度 = 18.3 × 結晶度 + 170
被熱温度 = 71.0 × ln (粒径) + 285
・光学顕微鏡や簡易型電子顕微鏡によって、比較的簡便に石英の被熱温度を求めることができる。今後「石英を用いた地質温度計注3)」として途上国を含めた世界中で汎用され、地球史の解明が大いに進展する可能性。
・将来的には地学分野だけではなく、石英の材料科学の観点から応用される可能性も。
名古屋大学博物館および大学院環境学研究科の束田 和弘 准教授の研究グループは、モンゴル科学アカデミー、モンゴル科学技術大学との共同研究で、石英の結晶度、粒径、被熱温度の関係について一般法則を見出すことに成功しました。
石英の結晶度と粒径は、被熱温度の上昇とともに上昇することが経験的に知られていましたが、その具体的な関係は未解明でした。本研究では、日本、モンゴル、ロシアの生物源チャート注4)試料を分析・比較し、石英の結晶度、粒径、被熱温度の間に以下の関係式が成立することを明らかにしました。
・結晶度 = 3.57 × ln (粒径) + 6.46
・被熱温度 = 18.3 × 結晶度 + 170
・被熱温度 = 71.0 × ln (粒径) + 285
本研究の特徴の一つは、光学顕微鏡や簡易型電子顕微鏡、X線回折装置によって、比較的簡便に石英の被熱温度を求めることができることです。したがって今後、「石英を用いた地質温度計」として、途上国を含めた世界中で汎用され(データの蓄積が加速化し)、地球史の解明に大いに寄与することが期待されます。
また本研究は地学分野だけではなく、将来的には石英の材料科学の観点からも応用される可能性を秘めています。
本研究成果は、2025年11月28日付、Springer Nature社の科学誌「Scientific Reports」にてオンライン公開されました。
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注1)石英結晶度:
石英結晶(二酸化ケイ素:SiO2)は必ずしも原子や分子が規則正しく配列しているとは限らない。結晶構造を持たず、原子や分子が不規則にばらばらに配列しているものを「非晶質(アモルファス/ガラス)」と、規則正しく配列しているものを「結晶」と呼ぶ。「石英結晶度」は原子や分子がどれだけ規則正しく配列しているかを示す指標のこと。
注2)被熱温度:
砂や泥などの堆積物は、続成作用や変成作用などを通じて長い時間をかけて熱や圧力を被ることによって「岩石」となる。その時に被った温度を「被熱温度」と呼ぶ。
注3)地質温度計:
ある鉱物の結晶度や化学組成は温度によって規則的に変化する。それらの鉱物の性質を利用して岩石の被熱温度を推定する手法を「地質温度計」と呼ぶ。地質温度計は岩石の成り立ちを知るための手掛りを与えてくれるため地球科学の研究の上で重要である。
注4)生物源チャート:
ほとんど細粒緻密な石英からなる岩石を「チャート」と呼ぶ。その中で石英骨格のプランクトン化石が密集するチャートを「生物源チャート」と呼ぶ。石英は非常に硬いので侵食に強く、チャートはしばしば尾根を形成する。
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Development of a quartz-based geothermometer for biogenic chert
著者:田中 空(環境学研究科卒業生)1, Sharav Davaanyam(元環境学研究科大学院生)2, Bayart Nadmid(元環境学研究科大学院生)1,束田和弘3*
1 名古屋大学大学院環境学研究科
2 モンゴル科学アカデミー地質学研究所
3 名古屋大学博物館(環境学研究科兼担)
* 責任著者
DOI: 10.1038/s41598-025-29140-w
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-025-29140-w
名古屋大学博物館 束田 和弘 准教授
https://www.num.nagoya-u.ac.jp/index.html