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医歯薬学

2026.02.02

PM2.5に含まれる"スズ"がスギ花粉症を悪化させる可能性― 環境汚染とアレルギーの新たな関係 ―

【ポイント】

・スギ花粉症患者では、健常者に比べてPM2.5に含まれるスズ(Sn)が鼻腔内に蓄積しやすい可能性が示されました。
・スギ花粉症患者の鼻腔内スズ濃度は、非スギ花粉症患者と比べて約3-4倍高く、鼻炎症状の強さと有意な相関を示しました。
・アレルギー性鼻炎モデルマウスでは、非アレルギーマウスに比べ、PM2.5に含まれるスズが鼻腔内に2-3倍多く捕捉されました。その結果、肺に到達するスズ量は30-40%低減しました。
・アレルギー性鼻炎モデルマウスの鼻粘膜ではムチンが過剰に産生されており、このムチン増加が鼻腔内でのスズ蓄積に関与している可能性が示されました。
・これらの結果から、健常個体において広く受け入れられてきた「PM2.5は鼻を通過して肺に到達する」という考え方は、アレルギー性鼻炎を有する個体では必ずしも当てはまらない可能性が示されました。
・本研究は、PM2.5に含まれるスズに着目し、大気汚染がスギ花粉症などのアレルギー性鼻炎を増悪させる可能性を示すとともに、今後の環境政策や健康リスク評価の基盤となる科学的データを提供するものです。

 

名古屋大学大学院医学系研究科 環境労働衛生学のデルガマ ニシャディ 大学院生(共同筆頭著者)、田崎啓 講師(共同筆頭著者)、加藤昌志 教授(責任著者)らの研究グループは、福井大学および名古屋市立大学との共同研究により、PM2.5に含まれるスズ(Sn)が、スギ花粉症などのアレルギー性鼻炎の症状を悪化させる可能性があることを明らかにしました。

 

本研究では、PM2.5に含まれるスズがスギ花粉症の症状に及ぼす影響について、ヒトおよび動物モデルを用いて検討しました。スギ花粉症患者44名と健常者57名を対象とした疫学調査では、①スギ花粉症患者の鼻腔内スズ濃度が健常者に比べて3-4倍高いこと、②鼻腔内スズ濃度が自覚症状の重症度と有意に相関することが示されました。さらに、アレルギー性鼻炎モデルマウスを用いた実験により、PM2.5に類似したエアロゾル等を用いて鼻腔内に曝露されたスズが、鼻粘膜の粘液成分(ムチン)に捕捉されることにより症状が増悪する可能性を示しました。

 

本研究成果は、大気汚染物質であるスズがアレルギー性鼻炎を増悪させる可能性を示した初めての報告です。これまで「健常個体では、PM2.5は鼻腔を通過して肺に到達する」と考えられてきましたが、アレルギー性鼻炎を発症した個体では、PM2.5由来のスズは、鼻腔を通り抜けることができず、鼻腔内に長くとどまることになり、症状悪化につながる可能性があります。

従来から、大気汚染とアレルギー性鼻炎の関係が指摘されてきましたが、「どんな大気汚染物質がアレルギー性鼻炎に影響するのか?」についての科学的データは限られていました。本成果は、アレルギー性鼻炎を悪化させうる大気汚染物質の1つを特定しただけでなく、今後の環境政策に貢献できる可能性があります。

 

本研究成果は、2025年12月2日付で国際学術雑誌 Allergy にオンライン掲載されました。

 

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【論文情報】

雑誌名:Allergy
論文タイトル:Emerging Risk: Intranasal Tin Exacerbates Allergic Rhinitis in Humans and Mice.
著者:Delgama A. S. M. Nishadhi, Shogo Sumiya, Akira Tazaki, Takumi Kagawa, Mohamed Abdelmoneim, Masafumi Sakashita, Kazuhiro Ogi, Shigeharu Fujieda, Shinichi Iwasaki, Masashi Kato        

DOI: 10.1111/all.70180

URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/all.70180 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/All_260202en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 環境労働衛生学 加藤 昌志 教授 
https://nu-hygiene.jimdofree.com/