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化学

2026.03.11

天然の細菌を"だまして"ダイオキシンなど汚染物質を分解 遺伝子操作なしで豊富な微生物を活用する環境浄化の新戦略

【ポイント】

・天然の土壌細菌を“そのままの姿”で用い、細菌がもつ酸化酵素の働きを外部から与える分子(デコイ分子)で制御することで、芳香族汚染物質の分解を実現。
・脂肪酸に似せたデコイ分子により、酸化酵素シトクロムP450は汚染物質を“基質として認識するよう誘導され”、水酸化反応を実行。
・遺伝子操作を伴わないため、遺伝子組み換え生物に適用される厳しい法規制を受けることなく運用でき、既存の豊富な微生物資源をそのまま活用できる可能性を秘めた新たなバイオレメディエーション注 1)戦略。

 

名古屋大学大学院理学研究科の荘司 長三 教授、伊藤 史哉 博士後期課程学生、唐澤 昌之 博士後期課程学生(当時、現・東京大学大学院農学生命科学研究科特別研究員)の研究グループは、分子を用いて天然の土壌細菌がもつ酵素を外部から制御することで、芳香族汚染物質の微生物分解を可能にする手法の開発に成功しました
ベンゼンやダイオキシン類注 2)などを含む芳香族化合物は、環境に長期間残留する主要な汚染物質として知られています。近年、細菌などの微生物の浄化作用を利用して分解する「バイオレメディエーション」が注目を集めており、汚染物質を効率よく分解する微生物を遺伝子操作で生み出す研究が盛んに行われています。しかしながら、生物多様性の保全を目的とする規制のため、人工的に遺伝子操作された微生物(GEM)を自然環境の下で使用すること(開放系使用)には高い障壁が存在します。
本研究では、土壌から採取された天然の細菌に脂肪酸を模倣した小分子(デコイ分子)を添加し、生体内の酵素を“だます”ことで汚染物質の分解を実現しました。巨大菌や枯草菌など、土壌に遍在し本来は分解能力を有しない細菌でも、デコイ分子の作用により汚染物質の分解反応が誘導されます。これにより、遺伝子操作を伴わない新しいバイオレメディエーションの可能性が示されました。特に、ダイオキシン類の一種を標的としたモデル系において、デコイ分子を与えられた枯草菌は迅速に分解反応を開始し、その水酸化生成物が確認されました。
本研究は、自然界から単離された微生物を遺伝子操作なしに環境汚染物質の分解へと転用する新しい戦略を示したものであり、既存の豊富な微生物資源の活用を促す道標となる研究成果です。本研究成果は、2026年3月9日に英国王立化学会発行の学術誌『Journal of Materials Chemistry A』オンライン版に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)バイオレメディエーション:
生物の浄化作用を利用した環境汚染浄化手法のこと。細菌などの微生物を用いた手法が含まれ、汚染物質の分解・無毒化を生物学的プロセスによって行う。
注2)ダイオキシン類:
ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフラン、ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニルの総称。環境中および生体内に長期間残留する難分解性化合物として知られている。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Materials Chemistry A
論文タイトル:Chemical Activation of Native Cytochrome P450s in Soil-Derived Bacteria by External Molecules Enables Biodegradation of Aromatic Pollutants
著者:伊藤史哉、唐澤昌之、荘司長三(名古屋大学大学院理学研究科)
DOI:10.1039/d5ta09218c
URL:https://doi.org/10.1039/d5ta09218c

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 荘司 長三 教授 
https://bioinorg.chem.nagoya-u.ac.jp/