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生物学

2026.03.16

神経回路の「設計原理」は存在するのか?〜遺伝子の濃度勾配でコードされる脳内配線地図をデータ駆動で解読〜

【ポイント】

・脳の神経細胞は、どのようなルールでつながっているのかを、実際の脳データを使って解析
・神経配線データと脳内の遺伝子発現データから、神経の行き先を表現する「遺伝子の濃度勾配でコードされた脳内配線地図」を読み解く新しい解析手法 SPERRFY を開発
・この脳内配線地図を使うことで、実際の脳内の配線パターンを高い精度で再現
・脳全体の大まかな接続構造と局所的な細かい接続構造が、階層的な濃度勾配によって制御されている可能性を示唆
・神経回路形成に関わる可能性の高い遺伝子候補を体系的に抽出でき、脳発生や神経疾患研究への応用が期待

 

名古屋大学大学院医学系研究科/広島大学大学院統合生命科学研究科の本田直樹教授、小池二元特別研究学生(広島大学大学院統合生命科学研究科博士課程学生)らの研究グループは、神経回路の配線原理を全脳スケールで解明することに成功しました。 本研究では、マウス脳全体の神経配線データと脳内の遺伝子発現データを統合し、遺伝子の濃度勾配によってコードされた「脳内配線地図」をデータ駆動で読み解く新しい解析手法 SPERRFY を開発しました。この脳内配線地図を用いることで、実際の脳内の配線構造を高い精度で再現できることを示しました。
脳は自然界に存在する構造体の中でも最も複雑なものの一つであり、その回路構造である神経コネクトームは、私たちの認知機能や行動、さらには個性そのものを規定しています。これまで、神経回路の形成において軸索投射を制御する分子メカニズムは精力的に研究されてきましたが、それらがどのように統合され、脳全体として一貫した配線構造が構築されているのかという設計原理については、神経科学における長年の謎とされてきました。
本研究は、神経配線構造と遺伝子発現分布という異なる階層の大規模データを統合し、データ駆動で解析することにより、遺伝子の濃度勾配によってコードされた「脳内配線地図」という概念を導入し、神経回路の配線原理を全脳スケールで読み解くことに成功しました。これは、分子レベルの知見と脳全体の構造を結びつける初めての体系的な枠組みを提示するものです。
今後、マウスにとどまらず、ヒトや霊長類、昆虫など、さまざまな生物種において神経配線データや空間的な遺伝子発現データが蓄積されていくと考えられます。本研究で確立した解析枠組みをこれらのデータに適用することで、神経回路の配線原理が生物種を超えてどのように共通し、どのように進化してきたのかに迫れることが期待されます。
本研究成果は、2026年3月3日付国際学術雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』に掲載されました。

 

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【論文情報】

雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
論文タイトル:A data-driven framework linking the connectome to spatial gene expression gradients inspired by chemoaffinity theory
著者:小池二元(広島大学大学院 統合生命科学研究科、名古屋大学大学院 医学系研究科)、中江健(福井大学 学術研究院工学系部門)、平 理一郎(東京科学大学大学院 医歯学総合研究科)、矢田祐一郎(名古屋大学大学院 医学系研究科)、本田直樹(名古屋大学大学院 医学系研究科、広島大学大学院 統合生命科学研究科、名古屋大学 One Medicine生命-創薬共創プラットフォーム)

DOI:10.1073/pnas.2516572123

URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2516572123

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科データ駆動生物学 本田 直樹 教授
https://sites.google.com/view/data-driven-biology/